『十誡』の謎

映画『十誡』の最大の謎は、淀川長治氏の解説が内容と全然ちがうことだった。
「はい。この映画ですね。デミルの十誡、デミルの十誡、です。デミルはこの映画、2回作ってますね。私のいうデミルの十誡は、サイレントの方です。」
と、合っていたのはここまで。
「この映画、時代劇と現代劇が交互に出てきますね」
実際には、交互ではなくて前半が時代劇、後半が現代劇。単なるいいまちがいではないのは、淀川さん、これを何度も繰り返している。
「教会が完成して、その祝いに人が集まります。お母さんも、よくぞ作ったと喜んでそこへ行くんですね。そして、天井を見上げていると、天井が落ちてきます。もおのすごい音をたてて、サイレントですけど、ほんとに音をたてて、ぐわらぐわらぐわらーっと、天井が落ちてきて、お母さんが死んでしまうんですね」
教会は、完成する数ヶ月前、まだ工事中の段階で南側の壁が崩れた。したがってお祝いに人々は集まってこないし、母親はちょっと工事を見にきたという感じで、一人で現場に立っていた。
「これは変だ。こんな立派な教会が崩れるはずはないと、お兄さんは調べて、調べて、調べて、弟がいんちきをやったことをつきとめます。そして許せないと、弟を追い詰めるんですね。弟は居場所がなくなって、外国へ逃げようとします」
弟がコンクリートと砂の比率を12:1にして強度偽装を行っていたことに、兄は工事現場で気づき、弟を問い詰めているその最中に、事故は起こる。したがって、お兄さんは何も調べていないし、事故の後も弟を懲らしめるために追いかけたりはしていない。弟が逃げるのは、愛人殺しの追及からのがれるため。
とまあ、別のバージョンがあるかのような解説なのだけれど、こりゃいったいどうなっているのか。はっきりしているのは、<淀川長治監修 世界クラシック名画100撰集>と銘打ったシリーズの現物を、解説を収録する前に淀川さん自身が観ていなかったということ。
そして販売会社も、担当のディレクターはじめ関係者も、みんな観ていなかったということ。なんなのだ。