2011年11月19日

TPPはどう決着するのだろう

思えばTPPをめぐる議論は、日本の政治の停滞と東日本大震災の影響もあって、ほぼ1年間、ほとんどストップしていた。昨年の今頃いっていた「政府は説明不足」「農業は壊滅する」「医療や金融はどうなる」などという反対派の論調と、それをめぐる状況は、1ミリも変わっていない。もちろん、国論をまとめるなどという状況にもない。

激変する世界情勢の中で、多国間の複雑で苛烈な交渉と競争にさらされる問題であるのに、この1年間の空白はまったく痛いのだが、首相が交代したことで、ようやく動き始めた。ちょっと遠目にみると、日本という国そのものがすでに老い、制度疲労を起こしているのではないかとすら思えてくる。

現在と、それから当分の間の未来、世界の成長を引っぱるのはアメリカでもEUでもなく、アジアだ。アジアの高い成長を杖として、年老いた巨大な国々がなんとか前に進もうとしている。それはいわば、飢えた野牛の群れが、乾いた原野を超えて、緑豊かな牧草地をめざそうとしているのにも似ている。

そしてTPPは、交渉参加国がすべて加盟すれば、世界経済の4割に相当する世界最大の経済圏になる。

一方、中国はアメリカ主導のTPPではなく、日中韓プラスASEANでのFTA経済圏構想を強く主張してきた。自国の影響力低下を嫌って、インドは枠外に置く構想だったのだが、ここへきて日中韓プラスASEANプラス印豪まで拡大した案に軟化してきている。

日本のとるべき道はアメリカ主導のTPPか、中国主導のFTAか、あるいは何にもしないかとなるのだが、事実上、第3の選択肢はない。少子高齢化で、国内需要はどんどん右肩下がりになり、この先は他国の成長を自国の成長として取り込むことしか道はない。TPPもFTAも、すべてそれを前提にして進められている。

日本企業を苦しめているのは、円高、高賃金、高い法人税の三重苦だ。これに関税格差まで加われば、企業の海外流出は加速して、国内にはいよいよ雇用はなくなる。今、新しい生産拠点はほとんど海外に建設されている。つまり、日本の労働者、就活学生たちのライバルは、インドやタイやインドネシアや中国の若者たちなのだ。

こうした多国間経済圏構想が植民地時代とちがうのは、それが互いに同じ条件を飲むことで成り立つという点だけれど、それにしても、自国の産業に壊滅的な打撃を与えないように、白刃ひらめくような交渉が、すでに各国間で行われているはずだ。日本は、まだそのテーブルにすらつけていない。

いわゆる通商代表部に相当する部署がないことも、致命的なように思える。農業は農業、産業は産業、外交は外交で、それぞれ勝手に言いたいことを言うのでは、国論・国益などという話どころではない。しかも、それぞれが独自に外国と交渉しているのだから、自国民だけでなく外国からみても、何がなんだか、という状態になっているのではないだろうか。

国民が自分の立場で、TPPへの賛成・反対を唱えるのは当然としても、もし日本に逃げ場のないことがわかっている政治家が、自分の立場だけで反対を唱えるとすれば、かなり無責任な話ではないかと思う。TPPに反対しても、TPPという近未来の枠組みそのものがなくなるわけではない。迫りくる現実に目を背けるだけでは、逃げ場はどこにもない。

明治維新ほどではないにしても、それに近い激動と混乱が待っているのかもしれない。その時、わが政府が機能するのかしないのか、そこから心配しないといけないのは、なんとも心もとない話だと思う。

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