2011年6月 8日

古典落語12席

こないだ人吉・洛柿亭の囲炉裏端で、三夜ほど仲間と飲んでいて、落語の話になった。まあ、話は釣りとかギターとか酒とかジャズとかスピーカーとかお灸とか、多方面に及ぶわけだけれど、たまたま落語の話になったわけだ。

主にワタシとしげさんの間で、主に三遊亭圓生論で盛り上がったのだけれど、それを聞いていた勝三郎さんが「私も少し、体系的に落語を聞いてみないといけないな」とつぶやいたわけである。体系的に、というあたりが勝三郎さんらしいというか、この人はワタシなどとはちがって、人間がちゃんとしているのである。

ただ、この人は素人ではない。ハンドルネームを江戸末期から明治にかけての長唄の天才であった杵屋勝三郎からとっているくらいで、文明開化のあの時代に、日本の古典芸能に何が起こったかをよく知っており、そしてあの時代へのリスペクトを全身にみちあふれるほど備えている。

何もかもか激変した明治の始めに杵屋勝三郎という天才がいなければ、長唄は江戸とともに滅んだか、今とは別の形で、おそらくずっと衰弱した形で残ったかした可能性がある。同様に、落語の方でも同じ時代に三遊亭圓朝がいなければ、またずいぶんと変わったものになっていったのだろう。

そして落語というのは、江戸的なもの、江戸なるものへの憧れやなにがしかの想いがなくては、楽しめるものではない。それは、落語を聞く者の資格であるとすら、立川談志はいっている。それはそうだとワタシも思う。

で、そんな勝三郎さんに、おすすめできる噺家は誰だろうと、例によっておせっかいなことを考え始めたわけである。

これから落語を聞いてみようかな、という人におすすめの噺家ならすぐに挙げられる。春風亭昇太と立川志の輔と林家たい平でいい。いずれも、ものすごくわかりやすくて、めりはりがきいていて、現代的なセンスもあり、面白い。名前が売れているから音源もたくさんある。ただ、昇太の場合は「そば清」なんか最高にいいのだけれど、ネットにある音源は新作がほとんどなのがもったいないと思う。

さて。

相手が勝三郎さんなので、本寸法に語った方がいいのだろう。音源が多く残っている昭和の名人を4人挙げるとすると、格の順に桂文楽、古今亭志ん生、三遊亭金馬、三遊亭圓生となる。金馬と圓生の順については異論も多いと思うけど、一応、北村銀太郎の発言にならってみた。噺のうまさだけでいえば圓生が最高なのかもしれない。それぞれがどんな人かというのは、もう噺を聞いてもらった方が早いので、これだけはというのを三席ずつ挙げてみる。

●八代目桂文楽「船徳」「寝床」「明烏」
●五代目古今亭志ん生「火焔太鼓」「三軒長屋」「唐茄子屋政談」
●三代目三遊亭金馬「藪入り」「孝行糖」「目黒のさんま」
●三遊亭圓生「居残り佐平次」「百川」「鰍沢」

ジャズと同じで、この世界もものすごく多様ですそ野が広いわけだけれど、昭和40年代以降の噺家で、この4人のうち誰の影響も受けずに噺家でいられた人は、ちょっと想像できないわけで、源流からおさえてしまおうという作戦である。

ほかに、林家正蔵という巨星がいて、もちろん柳家小さんがいて、桂三木助、春風亭柳好、三笑亭可楽、金原亭馬生、さらに古今亭志ん朝、立川談志、橘家圓蔵と続いていき、実は現代は稀にみる落語黄金期といえるほど、いっぺんにたくさんの才能が出てきているのだけれど、とりあえず上の12席を、まあ聞いてみておくんなさい。

というところであります。ちなみに、最近、十代目金原亭馬生が非常に好きになりました。

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