2011年2月 3日

大相撲のケッフェイ

賭博事件で警視庁が押収した力士の携帯電話から、「星のやりとり」を思わせるメールが出てきて、八百長ではないかと騒ぎになっている。相撲協会は放駒理事長がさっそく謝罪。10人の力士を呼んで事情を聴いたりもした。

前にも書いたけれど、相撲界というのは特殊な世界である。昨年6月の日記から引用すると

『異形の男たちをひとつところに集めて、ごく若いうちから相撲以外には何のトリエもなくなるような教育を施し、一人では表を歩けないような髪型と服装をさせ、ニホン古来の、やはりそれなりに意味のある伝統なり様式なりを伝えていくものなのだから、身内に甘いのは当然である。親方も含めて、ほかに行き場のない男たちが集まっている』

世界なのだ。その特殊性を丸ごと楽しむのが相撲ファンだったわけで、ここに競技性だのグローバル性だのを持ち込もうとするから、話がおかしなことになる。

千秋楽を7勝7敗で迎えた力士の勝率は.610であるという。幕内力士の生涯平均勝率は.450前後くらいだろうから、確かに高い。多少は星のやりとりがあってもおかしくない数字だけれど、全部が勝つというわけでもない。

ただ、方や8勝6敗、こなた7勝7敗で千秋楽を迎えた力士があるとして、これに負ければ十両落ちとか大関かど番なんていう時に、「頼む」といわれて断れる力士もいれば、断れない力士もいるだろう。ここで星を貸しておけば、またいずれ自分も助けてもらえるかもしれないというくらいのことは、当然(?)起こっていてもおかしくない。

また、多くのファンが陥落を望まない人気大関などの場合は、世論の後押しというか、空気を読む配慮というものも、どこからともなく起こってくることもあるだろう。

今度みたいにバレてしまっては仕方ないけれど、そんなことは相撲ファンならとっくにわかっていることでもある。プロレスにおけるケッフェイ(FAKEの隠語らしい)みたいに、絶対にそれがないと分野が成り立たないということでもなくて、絶対に存在はするけれど、みんながやっていることでもない。おそらくそれが大相撲の八百長なんだろうと思う。

貴乃花が引退する時、ひと騒ぎあるのではないかと心配する向きがあった。貴乃花は、星のやりとりを受け付けないタイプの力士で、非常にそういうことを嫌っていたし、あの性格だから何もかも話してしまうのではないかと。大乃国も全面的にガチンコの力士で、千代の富士の連勝を53でストップさせた。この時の相撲界の反応は、大体想像できるのだ。

かたや元小結の板井という人は、八百長の仲介役として欠かせない存在だったといわれている。彼がブラックな人間だったということではなくて、この世界では常に誰かがそういう役回りを引き受ける慣習になっていたと考えるのが自然だろう。元関脇の逆鉾も、よく名前が上がってくる人だ。そして、最近は何かとうるさくなっているので控えめではあろうけれど、現役力士の中にもきっとそういう人はいる。

だから、どうした。と開き直ることは力士にはできないけれど、ファンとしてはできるのだ。もともと相撲なんてものは、手を見せて客を喜ばせるものなのだから、勝てばいいというものではないし、勝ち負けがすべてではないというファンもきっと大勢いる。

ただ、やはりバレてしまっては仕方がない。事情を知りつくし、それに乗っかって利用もしつくしてきたマスコミが残酷に騒ぎ立て、また事情を知らない人たちが失望し、なじるのに頭を垂れて服するしかないのだろう。

この際、すべての膿を出し...という論調が出てくるのだろうが、日本人でも外国人でも勝てばそれでよいという純粋スポーツの相撲など私は見たくない。国体の相撲を見ればわかるけれど、勝つことにこだわりすぎる相撲は、立ち合いの駆け引きが巧妙になり、力士の表情にもゆとりがなく、いわゆる「お相撲さん」らしさがなくて、少しも面白いものだとは思えないのだ。

それにしても、捜査中の警視庁の捜査資料が相撲協会に流されたという事情そのものが、私には汚いことのように思える。八百長はおそらく刑事事件にはなり得ないのだし、法の権限で押収した資料を、このように恣意的に扱っていいのかと思う。

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