2010年12月24日

日南海岸ヤブレカブレなり

昔からの友人にJoe's(ジョー) さんという人がいる。寡黙というわけではないのに、どういうわけか寡黙に見える得な人で、釣りはへらぶなを専攻。ニフティの釣りフォーラムで、私が山田一郎さんからSYSOPを引き継いだ時に、淡水系会議室の議長として一緒に汗と涙を流したこともある。

なぜJoe's(ジョー) と名乗っているのかというと、本名が樋口だからだ。この洒落がわかる人も今は少なくなったのだが、最近ではむしろ樋口正博の方が通りがよい。「つり丸」という沖釣り誌の編集長をやっていて、女の子をはべらせてイイダコを釣りに行ったりしているらしい。

そのJoe's(ジョー) さんが、ほとんど海釣りというものをしたことがなかった頃に、一緒にゴムボートを漕いでシロギスのちょい釣りをしたことがあった。そんなに大昔のことではなさそうに思えるのだが、文中のカワセミさんという友人も今は亡い。へら師のJoe's(ジョー) さんは沖釣りの世界で身を立てることになり、私は子供が3人になり、家を建て、やはり馬鹿のままだ。
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【日南海岸ヤブレカブレなり】
5月に入ってずっと天候不順が続いていた宮崎地方だけれど、どうにか波もおさまったというので、26日にボートを出そうと考えていた。

そこでせっせと仕掛けを巻いているところへ、Joe's(ジョー) さんから「明日、宮崎に行くから」という連絡。そうなると夜は飲み会になるに決まっているので、激しく体力を消耗する自前ゴムボート釣りは中止して、磯もの拾いに切り替える。

Joe's(ジョー) さん、カワセミさんとともに宮崎の街で落ち合い、わりと平穏に過ごした翌日、Joe's(ジョー) さんをボートに押し込んで日南海岸に出撃することにした。

以前から目をつけていたポイント。磯場に挟まれて、200mほどの砂地が広がっている絶好の場所だけれど、波打ち際から急深になっているところをみると、ダシが強そうだ。道理で、海水浴場にもなっていない。この浜で釣りをしているのも見たことはない。

外洋に開けて、両脇を磯に守られた、潮通しのいい急深の砂浜。しかも定地網つき。と、こう書くだけで、ボート釣り人なら、ぐっとくるものがあると思う。キス、ヒラメ、マゴチ、クロダイ、カワハギ、マダイ、イシダイ、フエダイ、カサゴ、釣れるかどうかは別として、イサキの目すらある。

春には一発、ちょっとした型のマダイ、クロダイを狙えそうだし、秋になれば、それはにぎやかな五目釣りができそうだ。で、今はどうかというと、これはもう大ギスが寄っているにちがいない。

釣り場に着いたのは2時を回っていた。道路から荷物をふうふういって運び、波打ち際に降りてみると、どうも波が高い。みていると、どんどん高くなっていくようだ。しかし、沖をみるとうねりはないので、大潮の干潮で、ちょうど波打ち際が波が高くなるところに潮がさしているのだろう。ちょっと迷ったけれど、沖に出さえすれば大丈夫と判断して、出撃を決める。

慣れてない人と二人でボートに乗って、荒れ気味の浜から出る場合、どちらがどの役目をするか、むずかしい。一応、Joe's(ジョー) さんを先に乗せて、私が波の合間を見て押し出す係になる。

「いいですか、Joe's(ジョー) さん。タイミングをみて、私がえいやと押しますから、後先考えないで、とにかく沖にまっすぐ漕いでくださいよ。質問や相談は沖に出てから受けつけます。人生について考えるのも後にしてください」

しばらく波を眺めて、呼吸をはかり、ここというところで沖に押し出す。

せえの。よいやさ。

Joe's(ジョー) さん、一所懸命、ボートを漕ぐ。なかなか進まない^^;。
Joe's(ジョー) さんの背中越しに、大きな波が三つほどきてるのが見える。

「うわ、うわ。Joe's(ジョー) さん、波がきてる。波がきてます。漕いで漕いで。」
「うわ、うわ、ボートが横向いてます。まっすぐまっすぐ。波がくる波がくる。 うわ、うわ、うわ」

どっぱあん。

二人とも頭から波をかぶり、ボートはすっかり水船となってしまった。ボートはさらに岸際に寄せられ、横を向き、さらに波がこようかというところを奇跡的に立ち直り、船首が沖側を向いてやりすごす。

「Joe's(ジョー) さん、Joe's(ジョー) さん、大丈夫ですかJoe's(ジョー) さん。 ああ、オールにロープが絡まってます。これじゃ進まないや。とにかくほどいて場所を代わりましょう。私が漕ぎます。あ、耳に水が入ってるや。ひどいですね、こりゃ。まあ、とにかく危機は脱しましたから安心してください」

Joe's(ジョー) さん、あまりのことに声もない^^;。

とにかく少し沖に出たところで、濡れねずみになった二人は仕掛けを用意し、ぽちゃんと放り込むと、すぐにアタリ。キス、20センチ。

いるじゃないですか、いるじゃないですか。思った通りだ。いい釣りになりますよ。すぐにJoe's(ジョー) さんにアタリがあり、竿を2度ほどしめこんで、でっかいキスが上がってくる。25センチもある。

「うわー。でけえ。こんなキス、見たことないぞ」
「よしよし。釣りましょう釣りましょう。濡れたんだから釣らにゃ合わんです」

明日は東京に帰るというのに、旅空の下でパンツの中まで濡れてしまったJoe's(ジョー) さんの境遇というものは、悲惨といえば悲惨だけれど、すでに全身濡れてしまえば、お互いにもうヤブレカブレなのであって、とにかく今は釣りに集中するしかないのだ。

1時間半釣って、二人で25センチを頭に10尾の釣果。キスは天ぷらと刺身と塩焼きとなって、ヤブレカブレのココロというものをおだやかに慰めてくれた。実にうまかった。いい日になった。

荷物を背負って自宅の階段を昇っている時に、頭の中で、でいん、でいんと音がした。

まだ耳に水が入っていたのだった。

1998.5.28

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コメント

ありがと。まったく、なにも進歩していないなということを再認識しました。今年はへら釣りに回帰しました。「うみへら会」という会を作りました。なんと、Joe's(ジョー)が会長。副会長がライバル誌の「つり情報」の編集長の沖籐。幹事が「へら専科」発行人の熊谷。先日、忘年会をしました。ライバル誌の編集長同士というのは、やっぱり会話にちょっとパイアスが掛かります。それが面白い。

Joe's(ジョー) さん

ライバル誌同士で飲めるというのは、いいですね。
しかも、一緒にへら釣りですか。

みんながしんとして、最初の1尾の栄誉を手にしようとウキを見つめている時に、
サワッてもいないのに、びゅん、とアワセをくれて注目を集め、
「うそや」と笑っていたのは、いちろうさんです^^;。

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