2010年11月20日

角÷H2O

結果としてぼくの今の生き方を決めてしまったことになる広告コピーがあり、それを書いた仲畑貴志というコピーライターがいる。

1976年6月25日の日記に書き写していたものがあったので、書いておく。 ぼくが16歳の梅雨じぶん。それまで広告にさほど関心があるというわけではなかった。

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『角÷H2O』

そのH2Oが問題なのです。井戸水に限るという者がいるかと思えば、
いや、井戸水はいけないという者がいる。そこへ、ミネラルウォーターが
良いと口をはさむ者がいて、水道で十分という者がおり、
それならば断じて浄水器を使用すべしと忠告するものがいる。
また、山水こそ至上と力説する自称水割り党総裁が出現し、
清澄なる湖水に勝るものなしとの異論が生じ、花崗岩層を通った
湧き水にとどめをさすを叫ぶものあり。
果てはアラスカの氷(南極ではいけないという)を丁重に削り取り、
メキシコの銀器に収め、赤道直下の陽光で溶かし、さらにカスピ海の・・・と
茫洋壮大なる無限軌道にさまようものもある。
と思えばそっとあたりを伺い、声をひそめ、ただひと言、秋の雨です、
と耳うちする者がいたりする。
我が開高健先生によれば、「よろし、よろし、なんでもよろし、
飲めればよろし、うまければよろし」ということになる。
さて、あなたは?今夜あの方と、水入らずで。「角」

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この日の日記によると、「これにだまされて『角』を買うほど僕はスナオでないので、 ニッカの『黒の50』を買った」とある。ひねくれている上に、酒飲みの16歳だったのだな。

仕事の大半を、地域誌の編集で過ごしていて、それはそれで恵まれていると 思うけれど、人生のうち10年くらいは全身全霊でコピーを書いてみても よかったなと、思わないでもない。いや、白状すると、頭がおかしくなるほどそう願った時もあった。 毎日、毎日、いいデザイナーと組んで、コピーを書いていたいと。

あんなに刹那的な文章もない。 今日書いたものが、明日には古くなっている、その潔さ。 自分の証として残そうなどという了見がないところが好きだった。

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