2010年10月 5日

最近観た映画

9月上旬にPCがクラッシュして、環境は再構築しつつあるのだけど、各種データの復元はプロに頼むことになりそう。とりあえず、備忘のために最近観た映画のリストだけ。

「ピノイ・サンデー」(ウィ・ディン・ホー監督/2009)。

フィリピンから台湾に出稼ぎにきた二人が、街で拾った豪華な赤いソファを会社の寮に持ち帰るべく、不屈の闘志で台北を歩く歩く歩く。市街を通り、郊外を過ぎ、川を渡って、ただひたすらに二人の男が赤いソファを担いで歩くのだけど、これがおかしい。やがてだんだんと、あの赤いソファが愛とか希望とか、友情とか人生とかの意味を帯びてきそうな気がするのも、われながらおかしい。結局、二人はあきらめて、ソファを川にうち捨ててバスに乗る。その徒労感と身軽さと。

「黄金狂時代」(チャールズ・チャップリン監督/1925)
「独裁者」(チャールズ・チャップリン監督/1940)
「モダンタイムス」(チャールズ・チャップリン監督/1936)
「街の灯」(チャールズ・チャップリン監督/1931)

なぜか9月のある週は、おれ的チャップリン週間だった。並びは好きな作品順。どれもいいので甲乙つけがたいなんてことはない。好きな順なら、いくらでも甲乙つけられるのだ。「黄金狂時代」は、ドリフターズのギャグで育った世代としては、あのギャグの原型が全部ここにあることに驚く。それから女の残酷さを、こんなに露骨に描いた作品もない。

「独裁者」は、史上最大にして最高の勇気ある政治作品。ヒトラーの全盛時代に、あれをネタにして、作品として仕上げてくるというのは、ちょっと信じられない。結局、この時にヒトラーに向けたヒューマニズムの刃は、後の「殺人狂時代」でアメリカの不興を買い、彼は映画も撮らせてもらえないまま、ヨーロッパの寒村で暮らすことになる。この中立であることの強さと自信もまた、史上最大であると思う。


「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督/2002)

文句なく素敵な映画である。この頃のアクション映画は、ビルがアクションしたり海がアクションしたり車がアクションしたりするのだが(それもCGで)、この映画はちゃんと人がアクションしている。派手な殺陣というよりも、今は冴えないけれど昔は道場の師範代をしていたという真田弘之が、試しに棒きれを振ってみる、その背中の躍動と説得力が凄い。最後の決闘シーン、腹を真一文字に斬られて瀕死の田中泯がいう(おれの記憶ではこの人は舞踏家だ)、「まあ、掛けろ」にはしびれた。

「ええじゃないか」(今村昌平監督/1981)

イマヘイという監督は「豚と軍艦」しか観ていないと思うのだが、あの重喜劇と称する重さにおそれいってしまって、敬しつつ遠ざけている。幕末の庶民のあれこれを、泉谷しげると桃井かおりを軸に、あれこれしていくのだが、やはりこの監督だけに一筋縄ではいかない。喜劇は喜劇なのかもしれないけど、群衆の着物の一枚一枚まで、しっかりと考証だか演出だかしてあって、その折り重なっていく重厚感が凄い。キャストも凄いので、列記しておく。桃井かおり、泉谷しげる、緒形拳、露口茂、草刈正雄、火野正平、倍賞美津子、田中裕子、犬塚弘、寺田農、倉田保昭、池波志乃、伴淳三郎、三木のり平、河原崎長一郎、小沢昭一、小林稔侍、殿山泰司。なんといっても泉谷がキュートだ。

「インテリア」(ウディ・アレン監督/1978)。

例によってウディ・アレンがとぼけた顔で出てきて、憂鬱なんだか楽しいのだかわからない自虐ネタをつぶやくのかなと思っていたら、とうとう出てこない。聞けばイングマール・ベルイマンに憧れたあげく、オマージュというには、あまりにそっくりな作風の映画になったのだという。そして、その作品の仕上がりがいい。コメディであり悲劇でもあるホームドラマ。あの不思議な透明感が、ベルイマンなのだろうか。観ていないからわからない。

「博士の異常な愛情」(スタンリー・キューブリック監督/1964)。

長女が友達を連れて帰省してきて、映画でも観るかという話になり、これをセレクト。エンディングテーマの「また会いましょう」という歌詞の、洒落にならなさがわかってくれれば、それでよろしい。

「リンダリンダリンダ」(山下敦弘監督/2005)。

「博士の異常な愛情」と二本立てで観た。長女と友人はともに大学の演劇部にいるので、演劇的な構図の作り方だの編集だのに、それなりのセンスを持っているわけだが、なるほどそういう観点で見ても、この映画は凝りに凝っている。もしかすると黒澤明の系譜に通じる表現主義的な監督なのかもしれない。バンドマンが4人、野原を縦に並んで歩くのはリアリズムではないしな。どしゃ降りのバス停のシーンの絵の作り方なんか、ほんとにうまいもんだ。それなのに、全体としてリアルなんだからな。

大体、青春ドラマなのに、葛藤も大してなく、主人公が成長するわけでもなく、ヒーローは出てこないし、ギャグというほどのこともなく、たまたま雨が降ったから体育館は満員になったけど、そうでなければ客なんかいないわけだ。ドラマからドラマ性を徹底的に排除しつつ、なおドラマであり、表現にこだわった絵を作りながら、なおリアルであるというのは才能というしかないじゃないか。たぶん、この後も何度も観るはずの映画。

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