2010年3月25日

テレビ台兼用スピーカー(1)

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昔むかしのその昔。長岡鉄男師が設計された【MX-127AV 凱旋門】というテレビ台兼用のスピーカーシステムがあった。長岡師は、おそらく70年代の4ch騒動に嫌気がさして、その反発もあったのかと思うのだけれど、1980年に4本のユニットをひとつの箱にまとめたスピーカーマトリクスシステム第一号MX-1を発表。

特殊なアンプやデコーダーといった、大がかりでお金のかかる既存の4chより、結線だけでやれてしまうスピーカーマトリクスの方が、よほど高純度で品位の高いサラウンドが実現するではないか。つまらない論争にかかずらって被害を受けたマニア諸氏よ、ついでにオーディオメーカー諸氏よ、この音を聴けといった気迫のようなものもあったかと、今、想像するわけである。

次いで1987年には、シアタールーム「方舟」が進水。これは最初からAV時代を見越して、シアターとして建てられたもので、もはやピュアオーディオよりも絵が走ることの方に興味の比重が移っていったことを思わせるわけだけれど、そのスピーカーマトリクスとAV志向の自然な合体の結果として、テレビで使うためのマトリックスシステムというものが、次々に生まれてきた。

1992年に発表された【凱旋門】は、一連のテレビ用AVシステムの中でも傑作とされるもので、当時、ほとんど目立った作例もなかったフォステクスFE127を3発使っている。私が作ったのは、1995年頃だったかな。ユニットも代替わりして、後にFE127Eに換装しているのだが、それすらもご覧のように古びてしまった。

こいつがどんな音がするのかというと、ユニットのキャラクターとして、さすがにピュアオーディオは無理なのだけれど、たとえば「ロード・オブ・ザ・リングス」など観ると、あの、うおおおおおおお...といった超低音が部屋の床から這い上がってくるような、ど迫力である。なんでテレビ台からこんな音がするのだという違和感が著しい。そして中音以上は前に張り出してくる。

肝心のサラウンドだけれど、これは少し距離をとって視聴すると、あっと驚く音場感である。センタースピーカーの効用か、ユニットのキャラクターのせいだか、台詞も明瞭で前に出てくるので聞きやすい。もっとも、3本スピーカーによるマトリックスというやつは、感じない人にはてんで感じないらしい。どうも位相差に対する感度には個人差があるようなので、そういう人には普通のステレオに聞こえるのだろう。

横幅700mm、奥行き420mm。構造は堅牢そのもので、何をしようがびくともしない。ラック部分は幅500mmあり、後方は空いているので機器の結線も楽ちんである。これほど高機能で完成されたテレビ台も前代未聞なら、これほど完成されたテレビ用スピーカーも前代未聞なのであった。

しかし、あれから20年近い月日が過ぎ、今やブラウン管テレビは駆逐され、薄型・大型の時代である。各メーカーからは、そっくりこのアイデアをいただいたテレビ台が次々に発売されているのだが、自作マニアが納得する薄型テレビ対応の【凱旋門】の後継は、ついに見たことがない。何年も前から探しているのだが、なるほどという作例は皆無である。

こうなれば自分で設計してみるかと何度かトライはしてみたものの、もとから無謀な話ではある。そこで、とりあえず書きながら、イメージの中で試行錯誤してみることにした。以下、(2)に続く。と思う。

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