映画>レッド・クリフ
『レッド・クリフ』(ジョン・ウー監督/2008)。
うかつなことにレッドクリフが赤壁のことだとは、最近まで知らなかった。宣材の写真か何かはどこかで見たことがあって、よくあるお寒いアクション映画の類であろうと、完全にスルーしていたのだ。これはやっぱり、日本公開版は漢字バージョンの方がよかったのではないかなあ。
そんなわけで、上映中の『レッド・クリフ2』を観ようとしたのだが、どうもこの映画は出来上がってしまえば5時間を超す超大作になったらしく、『レッド・クリフ2』は『レッド・クリフ』のバージョン2というわけではなくて、両方を観てようやくひとつの映画が完結するというものであるらしいので、映画館で『レッド・クリフ2』を観たさに、プロジェクターで『レッド・クリフ』を観たと、そういうわけである。
えー。その感想ですが。
全体を通して、「ふむふむ」「ふむふむ」といって、特に退屈することもなく観れて、後に変なしこりとか嫌な感じとかはまったく残らないので、これはこれで、いい映画なんだろうと思う。スケールはともなく、一年の大半は、こういう映画を観ていたいものだと思う。娯楽なんだからな。
キャストでは、周瑜のトニー・レオンは当たりだったと思う。その妻の小喬をやったリー・チンリンは、ちょっとここのところの日本映画では見当たらない(過去にもたぶん見当たらない)美人で、「嫋々たる」に妖艶を足して、しかも俗やくどさが残らないという、これはもう、ジョン・ウーが惚れて惚れまくって演出したにちがいない。一人の女優から、これだけの魅力を引き出すというのは、単に演出というのを超えたものを感じるわけである。
諸葛孔明の金城武は、何しろルックスがあれである。新しい孔明像を作るとまではいかなかったにせよ、画面のおさまりは大変よろしかった。ただ、ちょっと苦笑のシーンが多すぎたこと、もう少し泰然とした神秘的な雰囲気がほしかったことが、惜しかった気もする。風を呼ぶ祭壇のシーンも、見せ場としてほしかったな。
関羽、張飛、劉備については、これは三国志の三傑であるわけなので、もうちょいどうにかならなかったものか。張飛はまだしも、劉備は徳の高さを表わすには苦しかったし、関羽も美髭・巨駆の史上最大の義の人というイメージには、ちょっと届かなかった。
日本の『人形劇三国志』の造形と演出の素晴らしさを、あらためて思った。ジョン・ウーがあれを見ていたら、もっと別のものになったかもしれない。そのくらい、あの人形たちはいい顔をしていたし、赤壁の戦いにおいては、孔明、周瑜の描き方が見事だった。この映画では、どちらもいい人すぎて、一国の命運を背負う軍師の切迫感がなかった。
中村獅童は、もともと好きな役者なので、彼がここに混じって大きな存在感で出てくるというだけで、何もいうことなし。どのくらい大きいかというと、もともと甘寧役だったのが、存在感がありすぎて脚本になかったシーンまで撮ることになり、とうとう甘興なる架空キャラに変じたというほど。
真面目に三国志を観るつもりだと、首をかしげたり怒ったりする人も出てくるかもしれないけれど、もともと三国志演義というのは歴史ではなくて、いわば講談みたいなものなのだから、面白ければそれでいいのだ。多少、安っぽいところがあったにしても、それを100億円かけてやろうというのだから、まあ、いいではありませんか。
コメントする
(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)