K-1 Dynamite 2007
年末に紅白というものを見なくなって久しい。ぼくの紅白は山本リンダで終わっているので、美川憲一も小林幸子も知らない。もちろん、Gackt もポルノグラフィティも知らないのだ。大みそかに、ちらりと見た画面で「なんかアマチュアバンドみたいだなあ。ひどい曲だなあ」と言ったら、「これがポルノよ、そんなこといってるとオジチャンよ」と怒られた。まあいい。
で、ここ数年、大みそかは格闘技イベントが華盛りであったわけだけど、やはり2006年末の桜庭VS秋山でケチがついてしまった。あのヌルヌル事件のおかげで、去年の正月は非常に後味が悪く、そのまま偽装とかいんちきとか謝罪会見とかで一年を突っ走ってしまった。朝青龍も白い恋人も比内鶏も年金問題も、ついでにPRIDEがつぶれたのも、みんな、あの秋山のクリーム事件が導火線になっているのだと、元プロレス者で、現在、格闘技ファンになりそこねているワタシは思うわけである。
そして、あれだけ盛り上がった格闘技界が、すっかり熱が冷えてしまって、打撃系も総合系も含めて、たぶん3~4年前の半分の熱もない状態になってしまっていた。
のだけれど、大みそかのK-1 Dynamite 2007 は、相当面白いコンテンツだったと思う。PRIDEがUFCに吸収されて消滅し、残ったスタッフたちが「やれんのか!」というイベントを敢行した。そして、K-1のイベントであるDynamiteと地上波放送に相乗りして、主催者が異なる埼玉と大阪の二つの会場を二元中継するというアイデアは、前代未聞の離れ業といっていい。米国の大資本に踏みしだかれた状況で、いわば窮鼠猫を噛み、鶏も追われりゃ五尺飛ぶというやつだったのかもしれないけど、相当ないろいろをクリアしないと、こういうことはできないわけで。
そしてまた、今年を占うとすれば、昨年まで敵対していたPRIDEとK-1が手を結んだように、やはり大連立の話がくすぶることになるにちがいないのだ。どうも格闘技イベントというのは、紅白なんかよりも、よほど世の中とリンクしているように思えてならない。客のニーズを汲み取る力、それに応えて試合を構成する感覚に、すべてを賭けているわけだから、いってみれば政治と同じなのだ。猪木が政治家になったのは偶然ではない。大仁田やサスケは、どうか知らない。
で、今回のカード。わかりやすさという点では、ニコラス・ペタスVSキム・ヨンヒョンが白眉だった。217cm155kg、韓国シルムの横綱にあたる天下壮士に三度ついた男を相手に、180cmそこそこの「青い目のサムライ」が挑む。なんて、漫画のようなカードだけど、ここ数年、K-1はボビー・オロゴンやベルナール・アッカなどの「素人挑戦もの」を含めて、こういう絵に描きやすいカードをよく組む。考えてみればボブ・サップだって、「パワーだけはある素人」としてK-1に登場した。
こういうプロレス的ともいえるエンターテインメントの組み込み方は批判も多くて、曙のようについに何の物語もつむげないままに終わってしまうと(西島洋介も危ない。好きだけど)、やっぱり素人なんか上げるからだよということにもなるのだけど、うまくいくともの凄いインパクトも生む。
K-1がボクシングのように、ファンだけのものに終わらないエネルギーを持ち得たのも、こういういかがわしさも内包する懐の広さがあったからともいえるわけで、この方向性は間違っていないと思う。
で、ペタスVSキム・ヨンヒョンは、下手をするとペタスが噛ませ犬になってしまう可能性も考えられたのだけど、なんとなんと、ペタスがキムの足をローキックで破壊してしまい、ついでに40センチの身長差を乗り越えて、顔面にハイキック、かかと落とし、左右のフックを叩き込んでKO勝ちしてしまった。小よく大を制すの、奇跡の物語が起こってしまったのだった。
名勝負を挙げると、山本KID VS ハニ・ヤヒーラの緊迫感といったらなかった。PRIDE初期の頃の熱すらも思い起こすような、しかも当時よりもはるかにハイレベルな試合になった。これは、ほんとにすごい試合だったけど、こういう試合ばかりだと、息苦しさも感じるにちがいない。
それから、秋山成勲VS三崎和雄。この試合で見せた秋山の、舌なめずりをしながら信じられない速度の打撃を振るう、獰猛な表情が忘れられない。パンクラスGRABAKAの三崎和雄も、互いに柔道出身でありながら、まったく寝技に行こうとせず、打撃だけで勝負をつけようという喧嘩試合にふさわしい相手だった。こういう試合はしかし、一度だけでいい。そう何度も見たいものではないし、やってはいけないと思う。
よく殺気というけれど、あの試合に流れていたのは、もはや殺意だった。結果は、秋山のパンチを食らってダウンし、KO負け寸前までいった三崎がそこから盛り返し、逆にパンチを当てて1RKO勝ち。試合後に、三崎は秋山に公開説教をしたそうだけど、余計なことだろう。
注目カードだったヒョードルVSホンマンは、互いにいいところを出し合い、結局皇帝ヒョードルがホンマンにぶら下がるようにして逆十字で決めた。この人はもう、戦うマシンというか、刃物が抜き身で歩いてるようなものだ。
桜庭VS船木は、現在の実力差がそのまま出た感じで仕方なし。幻想や郷愁を抱くひまもなく終わってしまったけど、このカードを実現しただけでもOK。その他にも、魔裂斗VSチェ・ヨンス、田村潔司VS所英男と面白いカードが多くて、昔のPRIDEのような熱狂とはちょっと質のちがう、テレビコンテンツとしての格闘技の完成形のようなイベントだったと思う。紅白を相手にしようというのだから、これはこれでよいのだ。
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