2007年4月14日

映画>三文役者

『三文役者』(新藤兼人監督/2000)。

先週の、二度にわたる気功治療のおかげで気脈が通じたか、あるいは風邪に伴う48時間に及ぶ下痢のおかげでハイになったのか、映画を観れるコンディションが突如として復活したので、突如として映画を観るわけであります。

新藤監督が撮った亡き殿山泰司へのオマージュ。同時にそれは、新藤組や独立プロ近代映画協会、古き良き映画の時代への追憶でもあり、この映画の完成を待たずに亡くなった、妻・乙羽信子への追慕でもあるのだろうと思う。

オマージュとはいえ、なんせあの殿山泰司なのであるから、この疲れ切ったワタシのココロというものを、馬鹿馬鹿しくもほのぼのと慰めてくれるであろう的な心構えで入ったのだけど、冒頭、どうも感じがちがう。

まず、琵琶湖みたいな大きな湖水で伝馬船を漕ぐ殿山泰司が出てくる。画はモノクロで、妙に格調高い。音楽もマイナー調である。これは文芸作品ではないのか。それにしても主演の竹中直人のそっくりぶりはどうだろう。

続いて伝馬船から下りて、乙羽信子みたいな女の人がモンペをはいて、殿山と二人で見るからに重そうな水桶を二つ天秤棒に担ぎ、小さな島の果てしない斜面を果てしなく登りつめていく。

おや、これは噂に聞く『裸の島』ではないのか。どうなってるんだ。間違って借りてきてしまったか。

と、思ったら、画面は一気にカラーになり、変なシャツをだらしなく着てサングラスをかけ、なんやかんやわめきながら、昭和20年代らしき町のカフェで女の子を口説く竹中直人となる。

なんだ。伝馬船を漕いでたのも、天秤桶を担いでたのも、殿山本人であり乙羽本人だったのだ。あれは、本物の『裸の島』だったのだ。琵琶湖かと思ったのは瀬戸内海だったわけだ。

映画はこんな具合に、劇中、殿山が出演した新藤作品の映像が重なる。証言者的ナレーターとして全編、乙羽信子(本人)が出てくるのだが、当然、映画にも乙羽は出てくるわけで、リアルな?劇には今度は若い頃の乙羽を演じる若い女性が出てくる。構造が二重、三重、四重くらいになっているわけで、このあたりも面白い。カントクこと新藤兼人監督も本人役で出てくる。

殿山泰司という人の、仲間やオンナや世間からの愛され方を描くのに、それは新藤監督以上の人はいないに決まっているで、画面に風が吹き抜けるような自然さがあるのも、さすがにすごいものだと思うわけです。

キャストでは桂南光、吉田日出子の助演賞ものの演技が光り、主演の竹中直人も殿山のあくが強いけど憎めない感じををうまく出していたけれど、この映画の最大のキャストと断言してしまいましょう。内縁の妻役の荻野目慶子であります。このお姉ちゃんが、こんなにいい女優であったこと。風呂から全裸で上がって、そこらをうろうろし、浴衣を引っかけて殿山に啖呵を切るものすごさ。

全編、殿山泰司への愛と映画への思いのつまった、とてもいい映画でありました。

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