2005年7月26日

映画>日本海大海戦

『日本海大海戦』(東宝 1969 丸山誠治監督)。DVDで観た。

こんなことがあった、ということを知らない方にはひとつの歴史資料として勧められるのかもしれない。いってみれば、「坂の上の雲」第8巻のダイジェスト版。正直にいうと、映画としてはこんなものかな、というくらいで、吉村昭の「海の史劇」や「坂の上の雲」を読んだ方が、ずっと面白く、深みもあったと思う。

映画がわかりやすさを追わなくてはならないものであるにしても、人物の掘り下げがちょっと甘い。大体、山本権兵衛海軍大臣や東郷平八郎司令長官、上村彦之丞中将といった、「薩摩トリオ」の鹿児島弁がなっていない(笑)。あれは東京の人が考える想像としての九州弁。それから、東郷があまりにも多弁で、あの寡黙さをどう表すんだろうと期待してみていたので、ちょっとがっかりした。

加藤友三郎、島村速雄の両参謀長と、山本権兵衛はあきらかにミスキャスト。加藤、島村は日本海軍の智嚢ともいうべき冷静、沈着な人物であったはずで、あれをあんな風に余計なことばかり口走る愚か者に描いてはいけない。特に島村の描き方はひどい。山本権兵衛も、近代日本海軍の創設者にしてオーナーといえる人物で、あんなに軽々しいイメージはない。

史料として見た時に、乃木希典の第三軍司令部が敵の砲弾が落ちるようなところにあったとは考えにくいし、海戦の際、東郷の両脇にいたのは加藤参謀長と秋山参謀の二人くらいであったはずで、あとは司令塔に入っていたと思う。なんてところを含めて、いくつか気になるところもあった。

敵前大回頭のシーンは、この映画のひとつのクライマックスだろうと思うけれど、そこもあっさり。世界海軍の砲術に革新をもたらした安保砲術長なんて名前も出てこないし、彼がいつまでたっても敵に近づくだけで命令を出さない東郷にじれて、「どちら側で戦うのですか」と叫んだという名シーンもない。あれがないと、東郷ターンのスペクタクルが表現できないだろうと思うのだけどな。

まあ、こちらが「坂の上の雲」に刷り込まれてしまっていることもあると思うけれど、あの本は日本海海戦のひとつの教科書でもあって、それをなぞらないのなら、また別の何かを提示してほしいところではあった。と、35年も前の映画に注文をつけても仕方ないか。

まあ、なーんだという映画ではありました。

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