2005年7月 5日

本>ホーンブロワー・シリーズ

夏になると、ベッドで海の本が読みたくなる。いわゆる海洋冒険小説が妙に恋しい。『女王陛下のユリシーズ号』や『孤独の海』、『駆逐艦キーリング』も、たしか夏に読んだ。

で、以前からタイトルだけは知っていた『ホーンブロワー・シリーズ』を読み始めた。第1巻『海軍士官候補生』。英国海軍ものなのだが、ユリシーズやキーリングのように、北大西洋の荒海と独海軍を相手に、途方もない忍耐強さを発揮する寡黙な海の男たち、という話ではなくて、フランスやスペインを相手にしていた18世紀の帆船時代のお話。

いや、なかなか面白い。イギリスというのが、少なくとも第二次大戦まで世界一級の海軍国であったことの矜持と海そのものへの思いが、こんな物語を生み出すのだろう。日本は明治になって初めて海軍らしきものができて、早くもその30年後には一国の存亡をかけて世界史上最大の海戦を、ロシア相手に戦わねばならなかった。

きわめて若い国の海軍が、きわめて巨大な国の海軍を打ち破ったことは、物凄いことではあったけれど、第二次大戦の敗戦で、その歴史も矜持も断ち切られてしまったから、海の男というイメージと海軍が、すぐには結びつかないところがある。

今、日本で海の男というと、たぶん鳥羽一郎なんだろう。まあ、鳥羽一郎的世界で冒険小説が書けないこともないだろうけど、やはり相当にこじんまりとした話だ。ぼくは鹿児島で育ち、維新の頃の話や関ヶ原での島津義弘の奮戦なんかは聞かされて育ったけれど、それでも、あえていうならローカルで局地的な盛り上がりにすぎない。大体、アジアの中でも小さな国の内戦だものな。

でも、日露戦争の東郷平八郎も鹿児島だったな。その明治海軍を作り上げた山本権兵衛も、当時の海軍大臣だった西郷従道も鹿児島だ。しかもこの3人は、たしかご近所さんだったはずだ。そもそも、薩英戦争なんていうのもあったのだった。どんどん思い出すが、思い出すだけで収拾がつかない。

18世紀中頃の英国海軍は、たしかに世界史のど真ん中にいて、そこへはにかみ屋で妙に人間くさいところのある17歳の士官候補生が、まったくひよこ同然で飛び込んでくる。わくわくするなあ。ゆっくり読もう。

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