2005年4月30日

長渕剛さんのこと

はずみだから、長淵さんのことを書くが、特に知り合いというわけではなく、先輩として憧れていたわけでもない。当時の印象としては、「ギターがうまいなあ」ということと「いろんな人がいるなあ」といったくらいのものだった。

高校入学直後から疾風怒濤期に突入したぼくは、あちこちでさまざまなものに出会い、また巻き込まれつつも、学校では全体に居心地悪く退屈に暮らしていた。何しろ牧場なのだから仕方がない。

ギターを始めて半年もたたないうちに、クラシックの練習をほっぽりだしてポール・サイモンの「アンジー」だの「キャシーの歌」だのに熱中していたぼくは、サイモン&ガーファンクルがとても上手な先輩のユニットがあったことを知る。

3級上のそのユニットの名は「T&T」といった。最勝寺武さんと長淵剛さんの二人で、それぞれのイニシャルからとって「T&T」。オリジナルもやっていたが、とにかくサイモン&ガーファンクルが大変良かったのだという。

ある秋の放課後に、そのお二人が放送室を訪ねてきた。当時、フォーライフというレーベルが立ち上がったばかりの頃で、「どうもかっこいいから、ここにデモテープを送りたい。録音してくれ」ということで、音の達人であった白男川さんを訪ねてきたわけである。文化系クラブとはいえ鹿児島である。1年ちがえば虫ケラ同然という中で、3級上の先輩と1年坊主では身分がちがうのだが、お二人とも、特に長淵さんの方は終始静かな雰囲気でもあって、コーヒーと半田の匂いのする部室は、すぐにおだやかに打ちとけた空気となった。

しばらく練習する長淵さんの指先を見ていた。たしか、アリアのギターだったと思う。噂ではフィンガーピッキングは最勝寺さんの方が主に担当して、長淵さんはフラットピックが上手いということだったけれど、なかなかどうしてそのスリーフィンガーはいい音を出していた。彼は、当時のギター少年の誰もが憧れつつ、ほとんど誰も弾けなかった「アンジー」が得意なのだという。ぼくは強烈に対抗意識を燃やし(笑)、やがてアンジーをマスターすることになる。しかもクラシックギターだった。

(長淵=アンジー弾ける人説は、部内の噂であってぼくは当時確かめたことはなかった。ということに今、気づいた。ほんとに弾けるということは、数年後の『順子』のイントロで明らかになるのだが)

録音したデモテープは効を奏さず、T&Tがフォーライフからデビューすることはなかったけれど、翌年、長淵さんはソロで出たポプコンで入賞してデビューシングル「雨の嵐山」をリリースすることになる。

その10年後には、ポプコン福岡大会やフレッシュサウンズコンテストの審査員席にぼくが座っていたのだから、人生というのは、どうもよくわからない。

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