映画>望郷

望郷(ジュリアン・デュヴィヴィエ監督/1937年)である。ジャン・ギャバンである。ここは地の果てアルジェリアはカスバの女なのである。
フランス映画の最高傑作だとか、文芸春秋の洋画アンケートBEST150の第12位だとか、とにかくこれこそがキネマであるとか、メトロの匂いのする女だとか、しょっちゅう評判は聞いていたので心して観たのだが、残念ながらそれほど心動かされるものではなかった。
日本では戦争直前に公開された映画であるわけで、当時の世相の中でのパリへの憧れや無国籍無法地帯としてのカスバのある種の自由さへの憧れ。それらを共有した上で、時代の映画としての『望郷』を、時代の子として観ることができた人にとっては、それは切ないほどに胸に迫る映画だったにちがいない。少なくともギャバンには、パリを懐かしみ、女を追いかけ、警察に捕まり、胸をナイフで刺して死ぬほどの「自由」はあった。
そういうことを想像はできるけれど、もはや望遠鏡を逆さにのぞくくらいのことで精一杯だ。こういういい映画に決まっているものを、いい映画だと書くのもたわけた話なので、そんなことは書かない。ただ、よくできた小説は時代を超えて体験として真に迫るけれど、映画はそうでもないのだろうか。そうでもないこともないのだろうか。
メトロの女はともかくとして、ぼくにとってこの映画の主役はカスバの町だった。なかなか「町」と書いて似合う町がなくなってしまったけれど、有象無象入り乱れ、西洋なのか中東なのかアフリカなのかアジアなのかさえわからなくなるような(位置的には北アフリカだけど)、この映画の中のカスバは相当に魅力的だ。