映画>拝啓天皇陛下様

『拝啓天皇陛下様』(野村芳太郎監督/1963)。
渥美清主演のコメディ。といってもドタバタ軽いばかりではない。また、今の時代にタイトルから想像するような思想的なものも何もない。
「娑婆は地獄。軍隊は極楽」という山田正助(渥美清)は、読み書きは片仮名ならどうにか、という程度。昭和7年に初年兵として陸軍に入隊し、2年後に除隊。その後、日支事変には軍属として参加、第二次大戦が始まると念願通り召集され、中国大陸の戦線をさまよう。
父親は、と問われ「そんなもの、あるかい」と答える彼は母もまた三つで亡くす。それから地獄の娑婆を渡り歩く彼は、演習でその姿をかいま見た天皇への一途な敬慕を抱く。かなりデフォルメされてはいるのだろうが、かつて日本の軍隊は、このような人たちで支えられていたのではないだろうか。軍隊に入って初めて靴をはき、菓子を食べたなどという話も聞いたことがあった。
それにしても、こういう映画を撮ろうという人たちの、その作り手の了見のなんと深いことだろうと思う。ヒトが生きることへの共感と優しい目線がなくては、こういう映画は撮りようがない。それをまたあまさず伝える渥美清の演技のうまさ。「完」の文字が現れて、しばらくそこから動けないほどの余韻のある喜劇だった。