事故のこと
自転車で散歩中に転倒したのは8月9日のこと。事故の状況について、いろんな人に何度も問われたのだが、ただ滑ったというしかなくて、自分でもよくわからない。15分ほど走って、脚があたたまってきたので、さあそろそろ帰ろうかと、ぐっと踏み出して3、4回漕いだところで体が宙に浮いた。メニエールのめまいが出た可能性もあるのだが、わからない。感覚としては、滑ったとしかいいようがない。
立つこともできないので、道ばたまでにじり寄り、かんかん照りのアスファルトに座り込んで携帯で妻に電話。救急車を呼んでもらい、近くの病院へ。レントゲンの結果、鎖骨の骨折、肋骨にたぶんひび。頭部MRIも撮ることになったのだが、ベッドに横たわることができず(これができるようになるまで2週間ほどかかった。今でも右に寝返りはうてない)、MRIは見送り。
この善仁会病院は、なかなか患者を入院させないので有名な病院らしく、そのまま家に帰されたのだが、肋骨がひどい痛みで寝ることも起き上がることもできず、布団を積み上げておいて、そこにもたれてうなっていた。これではいかんと介護用の電動ベッドをレンタル。1時間寝ては痛みで起き、数分間うなることの繰り返し。汗と涙がにじむほどの痛み。それが朝から晩まで続く。晩から朝までも続く。
病院へは一日おいて行くことになっていたのだが、あまりの痛みに翌日、県立病院へ。そこでのレントゲンでは、鎖骨骨折、肋骨には2本ひび、さらに腸骨にも変形が見られ、骨折といっていい状態とのこと。入院するなら、すぐに部屋を準備するといわれたのだが、次の日に善仁会病院に予約があったのでいったん帰宅。
翌日、病院の待合室にいると、急に寒気がして20分ほどの間に、みるみる手足が冷たくなり、ふるえ始める。毛布を2枚持ってきてもらってくるまっていると、看護婦がきて検温。40度あった。そして右手が肩から指先までドラえもんのようにむくんで腫れている。手のひらのしわも見えない。
診断は肺炎。胸を打った時に肺が傷ついたのかもしれないとのこと。全身の兆候から、脂肪塞栓の可能性ありということで胸部MRI。胸が痛くてわめきつつMRIのベッドに横たわる。聞けば、外傷の際に希に血管に脂肪のかたまりができ、それがめぐって脳梗塞や心筋梗塞を起こすことがあるとかで、そういう感じがあると脅かされる。えらいことになってきた。そのまま入院。
入院時にもらったペーパーには、「外傷性のため全身状態が急変する可能性あり」とか「疼痛コントロールに努める」とか、ぶっそうなことが書いてあった。とにかく肺炎を治さないとということで、最初の主治医は内科医。24時間の点滴と酸素吸入が始まる。腸骨のせいか右足もうまく動かないことがわかったので、院内の移動は車椅子。
肺炎は痰を出すのが患者のツトメなのだが、咳をするたびに「ぎゃおー」と叫ぶほど胸が痛い。肋骨が折れているのに、咳が出るのだからたまらないのだが、幸い、熱も下がってきて肺炎は8日目には治癒。しかし、その1週間の痛みは未経験のものだった。夜、起きて苦しむものだから、妻は病室の床に泊まり込んでいた。
仕事の段取りその他、いろいろ勘案した結果、鎖骨は手術することに決める。鎖骨は原則、手術しなくてもよいという考えの医者も多いそうなのだが、ぼくの場合、折れた骨同士がものすごく離れており、「このくらいなら手術してもいいかな」とのこと。怪我の後、2週間が手術のタイムリミットということで、ぎりぎり間に合った。
8月24日、手術。前夜、深刻な顔をした麻酔医が部屋へやってきて、翌日の麻酔の説明をする。痛みがなるべく少ないように全身麻酔と神経ブロックを併用するとのこと。全身麻酔だと覚めてからいきなり痛いが、神経ブロックを併用すると覚醒後も数時間は効いているらしい。どっちにしても痛いんじゃないか。
午前9時すぎ、ベッドに乗せられて部屋を出て手術室へ。なんか薄緑色の部屋に、人がわらわらいる。名前と生年月日を問われて、麻酔のマスク。右肩の神経にさわる処置をごそごそする感覚があって、気づいたら猛烈な痛みと息苦しさの中にいた。もう自分の部屋だ。これから手術します、くらいのことは言ってくれ。覚悟もないままに意識を失ったじゃないか。
息苦しいので酸素マスクをとれと何度も要求する。しまいに自分でとる。看護婦がまたつける。また自分でとって「酸素は鼻からにしてくれ」と言い、その通りにしてもらう。痛い。5分か10分かわからないけど、目の前が白くなるような痛み。「術後24時間は痛い」と聞いていたが、これが24時間続くのなら殺してくれという人もいるにちがいない。ぼくも覚醒状態で痛みの真ん中に24時間いたら、もたないかもしれない。
幸い、そのまま気を失うように眠りに入る。夕方まで寝ていた。福山さんが来られたという声が、はるか遠くからするのだが、目をあけることもできなかった。まだ麻酔が効いていたのだろう。そしてすぐにまた眠りに入り、午後9時頃起きると、またもや深刻な顔をした麻酔医が来て「少しは眠れましたか」という。ずっと寝ていた。「それはよかった。鎖骨は特に痛いですから」。聞いてないぞ。
術後のめちゃくちゃな痛みの中で、わが痛みについて考えていた。「これは、激痛などという言葉ではだめだ。もっと何か適切な言葉が必要だ」。そこで、『ぎゃお痛(いた)』という言葉を発明する。ぎゃおーとわめくほど痛い。ぎゃおいた貞雄だ。ぎゃおいたさんの採点では、というやつだ。おかしいのだが、胸が痛くて笑えない。
それから、数度、痛みで起きる程度で、また朝まで寝ていた。一番痛いという「術後24時間」のほとんどを、眠って過ごしていられたのはラッキーだった。目覚めて看護婦に『ぎゃおいた』を説明するが、あまり受けなかった。
今回、いろいろとラッキーなことが重なった。まず、あれだけ強く全身を打っていながら、頭部をさほど強打していなかった。胸や肩を打った勢いで頭を打っていたら、どうなっていたのだろう。それから、入院した病院が自宅のすぐそばで、しかも巨大ショッピングモールに隣接しており、妻らの負担が最小限であったこと。幸い、個室があいていたこと。体の回復と仕事の締切りが(1週間遅れはしたものの)、ぎりぎり間に合ったこと。心配された脂肪塞栓が大丈夫だったこと。それに何より、こんな目にあったのが自分であったこと。自分だから気は楽だ。家の、ほかの者だったりしたら、たまらなかった。ついていた。
皆さま。何かとご心配をおかけしました。わざわざお見舞いをいただきながら、息が切れて病室ではろくに話もできずに申し訳ありませんでした。
Special Thanks.
JUNさん
骨折と肺炎と聞いてしばらくは電話するのを止そうと思い電話しませんでした。
「ぎゃお痛」で七転八倒していたんですね・・・
電話しなくて良かった(^^;
体が資本ですから怪我、病気には十分気を付けて下さい。規則正しい生活をしろといっても無理でしょうが少しは心がけた方が良いと思います・・・・。
私は去年から体が気持ちに付いて行かなくなりました。体が付いて行かなくなると幻覚幻聴が現れるようで、たぶん日之影で見たり聞いたりしたものはそれだったのではないかと思います。
最近では1回でヘロヘロになるから体力の衰えを何とかしないと・・・f(^^;
一方、漢方薬のおかげで耳の調子がだいぶ良くなりました。メニエールには漢方が効くかもしれませんよ。
なにはともあれぎゃお痛から脱出されたようで良かったです。くれぐれもご自愛下さいますように。
~CHAP~
なんとか落ち着いたようですね。
電話をかけた時はやっと肺炎が治ったとのこと。
負担をかけぬよう電話メールコメント等を控えていました。
ボクも胸に水がたまって入院をしたことがありますが、その時の痛みは呼吸もできないほどで、それこそぎゃお痛に近い状態でありました。
あの痛さを経験していますので、少しは解ります。>ぎゃお痛
完治するまでやんちゃは程々に・・・・・(^^);
>CHAPさん
真ちゃんからメールの件聴きました。実はあのメルアドほとんど死んでいます。
[email protected]
こちらの方にメール下さい。
真ちゃん、カレー修行に来週から鳥取にきます。うんとこき使おうと思ってます。f(^^);
とりあえず、仕事は終わったようで、よかったよかった!
手術も終わったから、とりあえずよかった。
術語のリハビリも、気をつけてくださいね。ぼく、右肺上葉切除術を受けたあと、リハビリに失敗して腕が上がらなくなり、半年は苦労しました。
もう、手術して、11年になるけど、まだ、ときどき痛みます。まあ、こういうものは、ゆっくりつきあわなければ仕方がないようで…。
英人
CHAPさん>
どうもありがとうございます。
入院中、さすがに煙草はまったく喫わずにすんで、完全にやめられていたのですが、退院後に原稿を書き始めたら、また再開してしまいました。
おいしくもないのですが、重圧の中で煙が言葉に変換されるような長年の暮らしを、変えることはできませんでした。せっかく健康に近づいたと思ったのに。
で、ぼくなども、もうとっくの昔から「一回でヘロヘロ」ですよ。絶倫しげさんといい、皆さん元気ですね。
あるぽさん>
ありがとうございます。「ぎゃお痛貞雄」には、受けて仕方なかったのですが、あれは麻酔が効いていたのでしょうか。えらい目にあいながら、まだ笑いを模索するタイプの人間であったことに初めて気づきました。
英人さん>
ぼくも今、右肩が上がりません。熱を持っているので、だいぶ炎症を起こしているようなのですが、こういう、さほど大勢に影響のない箇所の故障は、大物が片付いた後に、最後になって出てくるのですね。
不思議なもので痛みも、肋骨→鎖骨→右肩の順に、劇的に変化しました。同時に痛いということは、ほとんどなかったので、体の方で、その時に痛む場所、痛くなっていい場所を選んでいるようです。
たぶんぼくも半年ほどかかると思います。
思いもよらない事故って、いきなり生活すべてを狂わせてしまうから怖いですね。防ぎようもない事故というのもあるということがよくわかりました。
長い間身体を動かせなかった後は、おそろしいほど体力が低下しますから、今後もくれぐれもご自愛を。
僕の経験したぎゃお痛は、足の骨折、足の小指の強打、尿管結石、肋骨骨折、帯状疱疹などがありました。なるほど「ぎゃお痛」ですね(^_^;
ひろすけさん>
どうもDVDを送ってくださって、ありがとうございました。近くお返ししますね。
ずっと、人より運強く生きてこられていますので、時々、こうやってどこかで帳尻を合わせるようなことが起こるのかもしれませんね。今までの人生の恵まれ度を思えば、安い仕入れだったかもしれません(^^;)。
実は、かつて歩いた長崎→久留米間160kmを、自転車で走ってみようかと思っていたのでした。今後、さらに気をつけます(^^;)。
そうそう。
痛みを言葉にする…というので、思いだしました。
キングの『ミザーリ』、これ、痛みの小説です。ぼくは、これを読んだときに、あああ、痛みを言葉にするには、ぼくは貧困だなあとあきらめました。
ぼく、結核で療養所にいるときに、JUNさんに、マンの『魔の山』をすすめられたけど、まだ、読んでいないなあ…。
痛みの後は、『ミザーリ』だよ。
英人
ps
おこもりを始めていますが、中坊さんに、しぼられまくっています。いま早朝に万博記念公園を歩いて1周して、仕事に打ちこみ、晩ご飯のあと、また1周歩いており、体調はなんとか維持しておりますが、なにせ、細かいところまで、びしばし絞られていますので、なかなか、はかが行きません。
WEBと、紙が、まったく違うということを、思い知らされております。
まあ、産みの苦しみを、ずっと味わっております。
もうすぐ、これが快感にかわってくると思います。そうなれば、しめたものなのですが…。
何はともあれ、快方に向かわれて安心しました。
でも、くれぐれもお大事に。
ぎゃお痛ですか(^^;)。
まあ、比較しても仕方ないのですけど、僕の腸閉塞の腹部膨満と、果たしてどっちが痛いだろうか・・・?(^^;)
慣れというのは恐ろしいもので、痛みを訴えても、そのときにその痛みがどうにもならない状況を経験して仕舞うと、2度目は口から訴えなくなります。
訴えたところで誰もなにもしてくれず、というか、周りもしたくてもどうしようもない・・・そういう痛みって、いろんな病気・怪我で、数え切れないほど存在すると思います。
ぎゃお痛を越える痛みが、まだまだあると思いますよ。
英人さん>
すごいものですね。英人さん、いつのまにか「WEB屋」になってたんだ(^^)。「紙屋」かとばかり思ってました。図鑑、がんばってくださいね。こちらも金曜日あたりに、サイトの方の打ち合わせを予定しています。
それから、痛みの小説は、ちょっとしばらくはいいかな(^^;)。痛くなりそう。
と~るさん>
どうもです。もう20年以上前に、痛み専門の医者に会ったことがあって、当時、ペインコントロールという言葉がとても新鮮に感じました。おそらく彼は、この分野の草分けの一人だったのでしょう。
「治すことを目的としない医療に矛盾を感じたこともあるけど、痛みから人間性を守るのも医療だと思う」という言葉のありがたみが、今回、よくわかりました。
自転車は最近あんまり乗ってませんが、一時期MTBに凝って、色々改造したりして遊んでたことがありました。サイクルコンピュータもつけて最高速度に挑戦!なんてこともしてましたが、考えてみればバイク並にキケンを伴うものではありますね。ほどほどに楽しみましょう(^_^;
DVDは返さなくて結構ですよ。のんびりおたのしみください。中にはしょうもないのもあるかもしれませんが(^_^;観たい時に見たいものをごゆっくりどうぞ~
先日、伊豆で行われた自転車レースでも、コースアウトして道端の立ち木に激突した方が居られました。自転車って、怖いですね。
僕が6月に起こしてしまったサンキュー事故も、過去判例から7:3で当方過失が大きかったのですが、実際相手方に話を聞いてみると、対向車線から車が右折してくることを全く想定していなかったと。ブレーキも全く掛けずに、約40kmの速度で、僕の車のドテっ腹にドーンでした。かすり傷3箇所、前歯1本欠けただけで済んだのは奇跡的です。
自損・加害・被害の別を問わず、「用心」ですねえ・・・
JUNさん、文章からかなりの痛みが伝わってきます。
昔は痛み止めにモルヒネ使ったって話を聞きますが今は使用禁止なのかしら?
大分良くなったようですが、外傷って何年か引きずりますよね。
あたしもむち打ちで5年くらい首が重かったけど、気付いたら完治してました。
早く良くなるといいですね~。
たぬきさん>
今、鎖骨でも肋骨でもなくて肩が動かなくて痛いので困っています。五十肩みたいなものとか、腱板を痛めてるかもとか事故の時に強打してたのが、ちょっと動かせるようになった今になって出てきたんだろうとか、いろいろいわれますが…。
右胸から右肩にかけて、皮膚がぴりぴり痛いのも収まりません。こういう痛みが消えて、右肩がぐるりと動かせるようになるまで、半年とか1年とかかかるかもなあと思っています。
モルヒネ、今でも使っているようですよ。