2011年5月12日

映画>第9地区

『第9地区(Blu-ray)』(ニール・ブロムカンプ監督/2009)。

21世紀になってからも世紀末ものというか、終末ものというか、洪水になったり宇宙人が来たりする地球大破局のような映画が大にぎわいであり、どれも大体つまらないので、そういうつもりで観てみたら、これが案外と面白い。

つまらないと書いたけれど、たいていの映画にはどこか見どころがあるもので、特に最近の映画だとCGとか音響とかにお金をかけているので、そういう意味のスゴサとか爽快さはあったりする。ましてBlu-rayなのだから、精緻で壮大なCGであったり、計算された音響設計であったりというところには、とりあえずそこだけでも期待することはできるわけだ。

で、「ファントムメナス」以来(か?)、抜けるような空気感の中に精密に描き込まれたCGというようなものが、この分野の一応の基本になっているわけだけれど、この映画の場合、冒頭から映像がどこかぼんやりしている。始まってしばらくは、安いビデオで撮ったようないろんな人々のインタビュー映像が次々に出てきて、主人公について語る。なんだかウディ・アレンみたいだなと思った。

人物の動作や台詞も、ちっとも映画らしくなくて、ドキュメントの「フィルム」を見ているようである。この古いんだか新しいんだかわからない手法が、とりあえず新鮮だし、エイリアンの兵器で人間の体がばらばらに吹っ飛ぶようなバイオレンスシーンも多々あるのだけど、それがちっともバイオレンスに感じない。それどころか、いつのまにか「まあ、この映画は悪くは終わらないだろう」という、昔の西部劇のような楽観的・牧歌的な雰囲気すら漂ってくる。

つまり、これは徹底した娯楽映画なのだ。映画は娯楽だ、文句あっか。という意見に、私は何の文句もないので、これでいいのだと思う。

しかも、最初は「このエビめ」などという視点でエイリアンを見ていた観客が、いつの間にか、エビに同情し応援する転換が起こる。これ、かなり精密なドラマ設計をしないと、こんなにうまくはいかないだろうと思うのだ。

荒唐無稽で、あり得なくて、矛盾とツッコミどころだらけのお話を、客を飽きさせずにぐいぐい引っぱっていくのだから、世の評価はどうか知らないけれど、これは将来に残る作品ではないかと思う。安い人情ドラマとか泣きがひとつも入っていないところが、またよろしいかと。

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