FE103Mに涙すること
夏の間、エアコンの風よけに棚の上に置いてあったスピーカーを聴いてみた。フォステクスのFE103M(メモリアル)一発の小型バスレフ。きわめてオーソドックスなバスレフで、最初から低音は欲ばらない設計。ただし、板厚はしっかりとって、10cmユニットにしては重量級の箱に入っている。
何年か前、勝三郎さんが遊びに来てこの音を聴き、ひっくり返って喜んだ。これがきっかけで、すぐに同じユニットを使ったトールボーイを作り、さらにFE168ESというモンスター級のユニットを使った、スーパーレアという超弩級システムも作って、アキュフェーズのアンプで鳴らしている。
その資本の投下ぶりは申し訳ないほどのものなのだが、まさにそのきっかけになったのが、FE103Mの音なのだった。勝三郎さんいわく「聴いたことのないような音の粒だち。目からウロコの音」。
なにげなくケーブルをつなぎ、スワンの頭の上に箱を置いて、中川イサトの『1310』をかけてみると、第一音から、はっとする音が出てきた。
ああ、この音は何なのだろう。なぜ、これほどに体が揺れるのだろう。低音なんかちっとも出ていないし、明らかにハイ上がりだし、しかも全体に何かが歪んでいるような音が常にしているし、余裕もなければダイナミックレンジも狭いじゃないか(すべて、スーパースワンに比較しての感想だけど)。
なのに、この音は。驚いて聴き進めているうちに、曲が「Waltz」になったところで、心の中にぽっと温かい灯がともって、涙がぼろぼろと湧いてきた。おかしいじゃないか。オーディオ的にも音楽的にも、評価できるようなスピーカーじゃないぞ。
いや、おかしくはないのだ。こうやって音量をしぼって、スピーカーに近づいてみた時に、初めて聞こえてくる音というものがある。たいていのスピーカーは、音量をしぼるとその分、鮮度も表現も後退するものだけど、フルレンジ1発の良さで、パワーが入らなくても振動板は繊細に動いて音楽をつむいでいく。
小さな音に耳を傾けてみた時に、初めて聞こえてくる音があり、音楽がある。それはきれいな音とか、ダイナミックレンジがとかではなくて、もっと心の奥の方に直接入り込んでくるような音だ。ようやく思い至った。江川三郎という人は、これを追求していたのだった。スピーカーの音の出し方という点では、あらゆる意味で、長岡鉄男の対極にある人。
曲をジョー・パス&レッド・ミッチェルの「いそしぎ」に変える。やはりギターしか聞こえてこない。これはギターとベースのデュオなのだ。それでも、このギターの躍動感。
ケーブルをつなぎ替えて、スワンで同じ曲を聴いてみると、いつもの耳慣れた音。ベースはしっかり音階を刻んで、制動の効いた瞬発力のある低音を出してくる。
だが、しかし。さっきのFE103Mを聴いた耳には、中音から上にバックロードで増幅した低域がかぶっているようにも聞こえる。少なくとも、FE103Mほど音が前に出てこない。低域の代償に、何かの変調がかかっているのではないかという気がしてきた。
コペルニクス的転換かもしれない。どかんどかんと低音が出なくても、あたりをなぎ倒していくような鮮烈さがなくても、歪みだらけであってさえも、心に届く音がある。FE103Mの、あの音の出方は箱庭の中ではたしかに美しいものだけれど、とてもスワンに太刀打ちできるものではない。そもそも低域がまったく出ないのだから、録音された音の一部しか再生してくれない。
それでも一点だけ、どうしようもない美点がある。つまり、体が揺れてしまう。心が動かされてしまう。しばらく、ニアフィールドを追求してやろうかという気になってきた。
コメント
むか~しオーラトーン5Cというスピーカーを使ってたことがありました。
http://audio-heritage.jp/AURATONE/speaker/5c-2.html
スタジオモニターの定番のひとつということで買ってみたのですが、最初は低音は出ないし、電話みたいな音だし、失望しました。
でもある日、枕元に置いて小さな音量で聴いてみたら、その臨場感にびっくりしました。
いまだにあれを越える枕元スピーカーはありません。
最近は音の入り口であるマイクに凝ってます^^;
なんだかんだで、コンデンサ5機種8本、ダイナミック4機種6本まで増えてしまいましたが、それぞれの個性の違いが素直に現れる世界ですね。ただ、それを把握して使いこなせるかどうかは別問題でして^^;
試行錯誤の日々ですわ。
Posted by ひろすけ at 2009年10月 3日 01:44
いつもより1mほど椅子を前に出して聴いてみると、
全然ちがう世界がありますね。
ニアフィールドってこういうことだったのかと、あらためて発見がありました。
数年ぶりに、スピーカー工作をやることになりそうです。
とりあえず、リア用のバックロードホーンからかな。
Posted by JUN at 2009年10月 3日 02:46
懐かしいのが過去ログから出てきましたので、JUNさんに事後承諾で13年の時を越えて転載します^^;
これ、まだ使ってますか?>JUNさん
☆以下転載☆
02548/02557 GGC01064 JUN スピーカー完成(^_^)のこと
(19) 96/10/09 18:09
本日、秋葉原コイズミ無線より、ユニットと吸音材、ターミナルが届き、
セット、結線を終了。無事、スピーカーが完成しました。
さっそく試聴し、FAVの【はんだごて倶楽部】会議室に試聴記をアップしました。
ここは、抵抗ひとつの音の違いをシビアを聴き分けるような猛者揃いで、
ぼくのような素人の寄りつくところではないのですが、
面白いので、ここ数年、ずっとROM、たまに書き込みもしているわけです。
これからスピーカーを製作する方の参考になれば、と(^_^;)試聴記をアップします。そんな人はいないでしょうなあ(^_^;)。
【エンクロージャ】
<外観>
オイルステインの塗りムラが、古色蒼然たる味を出している(^_^;)。
<サイズなど>
20×17×30のバスレフ。ポートは、内径47ミリの塩ビパイプ×90ミリ。
ポートの回りには、ブチル8重巻(^_^;)。内側は黒フェルト貼り。
実は【ステレオ】誌95年7月号の、神崎一雄作『マスカラ・ソノーラ』を
ほぼデッドコピーした。オリジナルはバッフル4重で60ミリもあり、
それを大汗をかいて成型していたけれど、こちらは2重でのっぺりしている(^_^;)。
<いわゆる対策など>
内部全面に、ブチル2重貼り。その上に、粗毛フェルトを全面貼る。
裏板と側板は20ミリ厚。天版、底板は10ミリ厚。
ユニットは、足にブチル2重貼り。マグネットカバーのゴムは外し、
ここにも外周にブチル2重貼り。マグネット裏には3重貼り。
これらのブチル部分には、上からテフロンテープを貼る。
ついでに、紙袋吸音法を敢行。オニギリ型紙袋を2つ投げ込む。
こうした対策は、特に考えがあってのことではなく(^_^;)、
ユニット到着が待ちきれないところへもってきて、まだ在庫10巻もあるブチルが、
巻いてくれ巻いてくれと嘆願していたので、思わずやってしまった(^_^;)。
【ユニット】
フォステクス6N-FE1031発。どんな音がするのだろうかと、興味津々。
すでにコイズミ無線では、通販分完売だったところを、
以前、別のユニットを買うのに送金してお金が足りず(^_^;)、再三連絡を受けたものの
こちらも忘却しており(^_^;)、そのままになっていた入金分があったため、
コイズミが特別にはからってくれた。ありがとう(^_^)。
【試聴ディスク】
すべてCD。
1)【ミート・ザ・リズム・セクション】/アート・ペッパー
1曲目の『YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO』を聴く。
録音そのものがいいわけはないのだけれど、聴き慣れているため。
LR独立録音なので、結線が間違っていないか調べることもできる(^_^;)。
2)【帰去来】/さだまさし(^_^;)
2曲目の『線香花火』を聴く。淡々と歌いながらも、声量の変化が
けっこう大きいので、そのあたりの伸び、ダイナミックレンジをチェック。
3)【枯葉】/マンハッタン・ジャズ・クインテット
2曲目の『RECADO BOSSA NOVA』で、いわゆるドライブ感とピアノの音色を、
及び4曲目の『枯葉』で、トランペットのダイナミックレンジを聴く。
【試聴】
上も下も伸びてるはずのない10センチフルレンジに何を求めるかというと、
まずダイナミックレンジ、それから定位の良さと音場の広がり、
欲をいえば、音色と帯域のバランスということになるわけだけれど、
これらは、メインのFE208Σによるバックロードホーン(以下BH)で、
そこそこ得られているわけで、どこかひとつでも、
これをしのぐというのは、ちょっと苦しいかもしれない(^_^;)。
とりあえず聴く。
1枚目のアートペッパー。音出しをして最初の印象は、ありゃ?であった(^_^;)。
リズム隊の低音が出ないのは、メインのBHでも出ないので、いいけれど、
キモであるサックスの伸びがちょっと足りない。
確かにバランスがとれて、聴き疲れをしない音ではあるけれど、
そのせいか、実在感が希薄なような気がする。
こ、これは、対策をやりすぎたか(^_^;)。
いや、まて、FE208Σが、そこそこハイスピードなのであるから、
あの音に慣れているからかもしれないと、自分に言い聞かせつつ、2枚目。
さだまさし『線香花火』。イントロのギターの分離は良い。
左右CHのギターが絡みあいながら、気持ちのいい音場の広がりをみせる。
BHの音量を少し上げた時に出現する音場感が、小さめの音量で現れる感じ。
ユニットそのものの能率は同等くらいだろうと思うのだけれど、
全体に小さいことが、音場感につながっているのかもしれない。
ボーカル。さすがに定位は良い。声質も、ちょっcnイではあるけれど、
そこそこに深みがあり、なんといってもさわやかでヨイ。
しかし(TT)、この曲のキモである声の伸びが、そこよそこよ、というところで、
失速してしまう気味もある。ダイナミックレンジ不足、ということはないのだけれど、
期待していたほどではない。やはり、対策をやりすぎたか(TT)。:
【枯葉】を聴く。一聴して、LPでいえばほんのわずか回転数が上がった感じ。
低音の、いいところが十分に出ていないからかもしれない。当たり前(^_^;)。
試聴ポイントのピアノは満足。いい感じで鳴る。ただし、管楽器の、
乾坤一擲、今じゃ、それいけやれいけ、というところが出きらない。
これは、高域が足りないということもあるかもしれないけれど、
どうもぼくにはダイナミックレンジの問題のように思える。
やはり、対策をやりすぎたか(TT)。
【総合的な感想】
中高域のさわやかさは独自のもの。これは、なかなか大したものだと思う。
ただし、高域の上の方と、低域の中から下の方は、やはり出ない。
一方、それなりにバランスはとれているので、聴き疲れはしない。
この後、BHで再生するにはアンプを換えるしかないとあきらめていた
オケを聴く。半ばヤケになってドボルザーク【新世界】(^_^;)。
ところが、これが聴ける(^_^;)。対策をやりすぎたせいかどうか、
耳ざわりな音がせず、限りなくBGM風ではあるけれど、違和感がない。
誤解をおそれずに書くと、ダイヤトーンDS600Zの鳴り方を、
少しこじんまりとさせた感じといえないこともない。
【今後の展望と課題】
まず、サインスイープで徹底的にエージングを行う(^_^;)。
なじんだ頃に、再び耳をトガラせて聴いてみて、ダイナミックレンジの問題が
やはり残るようなら、吸音材のフェルトを少しずつ、外してみようと思う。
ただし、ユニットが木ネジ止めなので、あまりつけ外しを頻繁にやると、
ネジがバカになりそうで不安である(^_^;)。
P.S.
おーい。しんさん、たんぼりさん。スピーカー作ったるどー(^_^)。
わしは久々に燃えておるどー(^_^)。
JUN
Posted by ひろすけ at 2009年10月 5日 23:20
ひろすけさん
先日、ワタシがナミダしたのは、まさにこの箱であります。最初から古色蒼然としていましたが、いよいよ、古色蒼然となってきました。
当時のユニットは、6N-FE103だったのですね。これもいいユニットでしたが、ほどなく片方が断線したので、FE103Mに交換となりました。ユニットの出来は、6Nをはるかに上回ると思います。こんないい10cmユニットが限定版だったのは惜しいことです。
しかし、この箱、こんなに「対策」をしていたとは。
そういえば、この頃の【タックルボックス】を長岡鉄男御大が読んでいたらしくて、何かの雑誌のコラムに釣りフォーラムのことが書いてあったよと、ニフティの人に教えてもらっったことがありました。長岡さんは釣り好きだったので、何気なくのぞいてみたのでしょうが、そこでスピーカー工作の話が続いていて、当人も驚かれたのではと思います。
Posted by JUN at 2009年10月 6日 00:00
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