2009年3月12日

スピーカーについて

ここ15年ほど、市販スピーカーの世界から目を離しているうちに、どうも世間ではトールボーイ型のエンクロージャーが幅をきかせるようになっていた。

15年前は、小型2ウエイのブックシェルフが花盛りで、そいつを出来のいいスタンドに載せて鳴らすと、素晴らしい音場感が楽しめるのだという、そんな方向だった。今にして思えば、それは80年代の物量を投入した大型フロア型3ウェイへの時代的な逆流であり、またバブル崩壊後のダウンサイジングの流れが、スピーカーの世界にやってきていた、ということになるのだろう。

で、ここ15年の市販スピーカーの流れについて、ワタシがまったく無明であったかというと、そんなわけでもなくて、音が良くてコストパフォーマンスがいいとされるスピーカーのいくつかは聴いたことがある。それらの多くは、トールボーイの3ウエイ3ユニット/4ユニットというもので、なるほど音はきめが細かく、洗練されていて、絹のような音がしたのだが、どうも何を聴いても同じ音に聞こえてしまう感があった。

FE-108Sの無色透明な(これもまた偏った見解であるにちがいないのだが)音に慣れてしまっていたので、比類なき美音とされる音が、付帯音のかたまりに聞こえていたのかもしれない。また、ずっとフルレンジで通してきたので、ユニットの数が4つもあるというだけで、ちょっと目をつぶりたくなるようなところがあった。(これは、あきらかに偏見だろうね)

で、この間に、いつも頭にあったスピーカーが、いくつかある。タンノイのスターリング、JBLの4338など、ALTECの604系...。それぞれ、共通するところはほとんどない、独立独歩のスピーカーで、さまざまな個性から発しながら、やがて時代的な収斂に向かうというよりは、薄明の昔から続くブランドの本能に身をまかせるままにまかせながら、現代まで命をつないできた古豪である。

おそらく、この選択に自分の好みなどは反映されていない。というよりも、オーディオ的な些末な好みなどに右往左往するくらいなら、それが閉じたものであったにしても、憧れるままに幻に終わったかつての音に、しばらく浸っていたいという欲求が強かったのだろうと思う。

今でも、これらのうち、ひとつはほしいと思う。若き日のかなわなかった恋のように、しぶとく残り火が続いている。このラインナップを見て、失笑、苦笑、爆笑した人も多かろうけどね。若さゆえの恥をおそれてはいけないのだ。その憧れが無垢なものであるほどに、同時に滑稽でもあるというのは、古来不変の法則ではなかったか。

思うに、スピーカーを選ぶということは、曖昧で漠然とした夢のイメージに、太い実線で、ぐいと枠線を引くようなものである。とりあえず国境は定まったから、中のことを考えましょうか、という話になる。スピーカーは、すべてを規定し、そこからはみ出ることを許さない。あらゆる機器の特性を忠実に再現するというモニタースピーカーにしても、それは同じことで、むしろアルテックにしろ、三菱にしろ、各種BBCモニターにしろ、そこらにありふれたスピーカーより、さらに強烈な個性を持っているように思える。

人は、スピーカーのもつ個性と能力の中で生きていかなくてはならない。だから、スピーカーを変えるということは、オーディオ人としては肉体を替えるのと同じくらいの意味をもつ。と、リキんでみたりするわけである。ちと、街に灯が帰ってきたかな。

で、世間はトールボーイ型である。設置面積は小型並みで、容積は大型に準ずるからスケール感が出るという利点がある。小型ブックシェルフも、いずれにしても、時にはスピーカー本体よりも高価なスタンドに載せないことには、まともな音はしないので、それなら下を伸ばしてトールボーイにした方が、お得でもある。

ただ、従来、トールボーイ型が少なかったのは、ひとえにいい音のするシステムがなかったからだろうと思う。小型ブックシェルフの下を単純に伸ばしたものには、板鳴り、箱鳴りによる不要共振で低域の高い方がふくらみ、ぼわんとしただらしない音になるものが多かった。そこを押さえ込み、小型の俊敏さと、大型のスケール感を出すには、ユニットも箱も、素材や構造に工夫がいる。そのノウハウを醸成するほどの需要がなかったのだともいえる。

トールボーイ全盛の背景には、もちろん薄型テレビの普及がある。従来より横幅が大きなテレビの両サイドに置くには、この形でなくてはならない。だから、廉価品も普及品も入門用もマニア用も、こぞってトールボーイとなり、さらに(主に見栄えの観点からだろうと思われるが)、ユニットの数が無駄なほどに増えた。6畳や8畳の部屋に4ユニットのシステムを置くというのは、ナンセンスではないかと思われるのだが、とにかくバッフルをユニットで埋めないと、モノが売れないというのは、古今東西、同じなのだろう。

ワタシの些末で些細なイズムは、理想はフルレンジ、せめて同軸型にしなさい。さもなければ、タンノイやJBLのように、思考停止できるほどの魅力がある、閉じた世界に身をゆだねなさい、と心もとなくささやくのだが、君子は豹変することがある。ジャガーチェンジである。この際、トールボーイ多ユニットの、時代の音というやつを、しばらく探求してもいいかという気がしている。

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コメント

仕事帰りによく新宿西口ヨドバシカメラさんに立ち寄ってますが、ここのハイエンドオーディオコーナーが結構な品揃えでして、ちょいと耳の保養させてもらって帰路に着くなんてことやってます。

ご多聞にもれず、やはりトールボーイ主流でして、よくかけてるのがB&Wが多いですかね?だいたいえらくダイナミックレンジの広い録音のオーケストラものとか、歯切れの良いジャズのSACDなんぞ流してまして、そりゃもう「おおっ~!」とくることが多いのですが、値札を見て感嘆がため息に変わるいつもの日常でございます。

しかし、実際のところ確かに自分の部屋に持ってきたらどんなもんだろ?とは考えてしまいますね。店頭効果ってやつですか、そのへんも計算しつくされて作られてるでしょうし、宝の持ち腐れになりかねない。

でも、ちょっと照明を落とした落ち着いた雰囲気の中で、神経を集中して聴くのはいいもんですね。ここでスピーカーの衝動買いをしたことはありませんが、かかってたCDの衝動買いは何度かあります(^_^;)

おおむね、という話になりますが、店頭でいい音のするスピーカーは、家に持ち込めばもっとよくなる可能性がある。ということはあると思います。

よほど凝ったお店は別ですが、たいていはスピーカーは切り替え器を通していますし、ケーブル類は何十メートルも伸びているし、蛍光灯やらテレビやらが常時ついている同じ電源を使っているので、電源そのものが汚れているしで、再生にはかなり過酷な環境になっていますので。

一方で、店頭で地味な印象だったものが、家で聴くとよくて、店頭で目のさめるような鮮烈さを感じたものが、家ではうるさくてだめだった、ということもあるかもしれませんね。後者の方が、よく売れるのでしょうけど。

宮崎では、もう店頭で音を聴かせてくれるお店が、ほとんどなくなってしまいました。ショッピングモールの一角に、そういうお店を出すと、案外、売れるようにも思うのですけどね。何しろ、お父さんたちの行き場のない空間なので。

今度、モニターオーディオのPL300を聴く機会があったら、ぜひレポートしてください^^。

うちもようやくハイビジョンになりまして、薄い筐体から出てくる音がペラペラに薄くておっさんの耳では聴き取れないので、外部スピーカーを考えるようになりました。
ONKYOのAVアンプのエントリーモデルを買い、さてとりあえずフロント3チャンネルと思って
http://page19.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/x32819242
をウオッチしてましたが売れる気配がないです(^^;)。

つなぎでビクターのドルチェ(専用スタンド使用)で聴いてみたらちゃんとした音は出るし、これってセンタースピーカーも要らないんじゃないのと思うようになりました。

かくして2チャンネルスピーカーシステムは生き延びることになったのです。AVアンプ安いので良かった(^^;)。CDもDVDプレーヤーで聴こうと思えば聴けるし。

トールボーイって地震に弱いとおもふ(^^;)。

景気が上向いたらJBL4343のエッジを張り替えたいです。
若き日に買えてしまったのに今は無理かと・・。

昨日、ひっぴーえんどのCDを買いました。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%B2%E3%81%A3%E3%81%B4%E3%81%84%E3%81%88%E3%82%93%E3%81%A9-%E5%88%9D%E5%9B%9E%E7%94%9F%E7%94%A3%E9%99%90%E5%AE%9A%E7%9B%A4-DVD%E4%BB%98-%E5%92%8C%E5%B9%B8/dp/B001NGSKXY

しんさん

サラウンドは悩ましいところですね。最近の映画だと、音声設計がちゃんとしてるので、ぜひサラウンドを導入してみたいと思うのですけど、何しろセンタースピーカーの置き場がない。テレビならなんとかごまかせる気もするのですが、プロジェクターだと、かなり大幅な妥協をしないと。

センタースピーカー最重要説というのもあるくらいで、案外、低域も入っているようなのですね、最近の映画だと。しばらくは、スピーカーマトリクスでしのごうと思ってます。


秋山さん

ひっぴいえんど、面白そうですね。ぼくも買おうかな。「ゴロワーズ」にひかれました(^_^)。

昨日もちょっとヨドバシさんへ聴きに行っていましたが、スーパーハイエンドコーナー?と思われる隔離された一室ができてまして、よく見えなかったけど、タンノイのでかいの(^_^;)とか鎮座しており、ネクタイ締めていかないと入れてくれないような雰囲気でした(~o~)
PL300了解です。ダイナミックオーディオあたりなら置いてあるかな?が、僕の文章力でうまく伝わるかどうか??
下手なグルメレポーターみたいに「とろける~」とか「やばい!」くらいしか言えないかもしれません(^_^;)

関係ないけど、最近お気に入りの高田渡の動画
http://www.youtube.com/watch?v=slSfx1De-D4&feature=related
これほど温かい演奏はなかなかないですなあ。
オーディオ的なことはよくわかりませんが、こんな演奏の臨場感が更によく伝わってくるようなシステムが僕の理想ですかねえ?

ひろすけさん

ことのついでにお頼み申しますが、YAMAHA のSOAVO-1(BP)と、SOAVO-3も、見かけたらチェックを(^_^;)。

映画『タカダワタル的』で、あの人の右手が日本のミシシッピ・ジョン・ハートであることを知りました。あんなに正確で、強く、ウォームなスリーフィンガーは、日本ではついに聞いたことがなかった。あれを70年頃からやってたわけですから、すごいもんだと思います。

日本のスリーフィンガーは、PPM系というか、きれいに流れていくタイプですね。あんな風に、深く語りかけてくるようなものではなくて。

オーディオ的には、音像だけとれば、わりあい再生しやすいソフトかもしれません。最新のやつでもいいし、ちょっと古いアルテックやダイヤトーンみたいな、中音が張り出してくるようなやつでもいいと思います。あまり、大口径で振動板の重い、ヘビー級でない方が、むしろ良さそうな。

でもね、やっぱりVはAを越えてしまいます。そろそろ、プロジェクター、いかがでしょう(^_^;)。

プロジェクターは設置スペースがないですがな(^_^;)

で、今の手持ちのスピーカーで温かいアコースティックものを聴くと、
サンスイのSP-100iがしっくりきますかね。
スピード感があるロックやフュージョンジャズはちょっと重たい感じ
になるけど、生楽器をしみじみ聴きたいときには満足してます。
他にはYAMAHA NS-1000MM(NS-1000のミニチュア版?)
ヤフオクで落とした12cmユニット入りのフォステクスBK-10がありますが、バナナプラグであれこれ差し替えて試し聴きしてます。

最近のアコースティックなユニットではハンバートハンバートにハマって
ます。
佐野遊穂の抜群の歌唱力と、艶と透明感のある歌声。佐藤良成の土の匂いのする曲作りと「はっぴいえんど」を思わせるようなボーカルが良いです。

高田渡や加川良にも認められていたようですが、ただフォーク世代の
ウケを狙うのではなく、軸がブレない自分たちの世界を作ってます。

http://www.youtube.com/watch?v=bH1VzvOA8wc&NR=1
http://www.youtube.com/watch?v=BrLw4lfxpLA&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=dp7_SmZy_VQ&feature=related

ひろすけさん

サンスイSP100i、ネットで調べてみました。なるほど、こんなのありましたね。当時は仕事が忙しくて、オーディオの動向からは切れていたのですが、同社のアンプとともに、なんとなく覚えていました。

昨日、雑誌のフロクについてきた羽田空港そばの公園で飛行機の離陸を録音(^_^;)、という音源を聴いて、スーパースワンの底力にひっくり返り、買い替えはもうちょっと後でもいいかな、と思い始めております。

なんせ、右の地上で滑走を始めた飛行機がセンターあたりで離陸して、そのまま左側の天井ふきんを、はるかに駈け上って、最後には部屋いっぱいに音場が響き渡るわけです。

あのへん、海のそばらしくて、波の音が床のあたりからする。子どもが乗った自転車の音は、ちょうどユニットの水平上からする。三次元音場という言葉がありますが、もうこれは、オカルトでありました。

たぶん、京浜島つばさ公園か、城南島公園でしょうね。
運河を隔てた正面に滑走路が広がるヒコーキおたくの聖地でもあります(^_^;)映画「ハッピーフライト」にも使われてる場所です。
受信機で航空無線を傍受しながら、超望遠付のカメラを三脚につけて構えたおっさんたちがたむろしてますが、録音オタクは見たことがありません(^_^;)

そういえばデンスケの生録って流行りましたね。
屋外の生録ができる機材は持ってないけど、今度アコギ一本に対してマイク8本(僕のMTRに使える最大限)のマルチマイク録りを試して、はたして音場はいかに?にチャレンジしてみます。

今日、また行ってみたヨドバシさんには、YAMAHAのSOAVOも、PL300もありましたが、店員さんが忙しくて試聴できませんでした(^_^;)
あのコーナーは店員さんが少ないので、ヒマな昼間でもないとじっくり試聴できないかも?
今度、新宿にいらっしゃる際にでもごゆっくりどーぞ(^_^)v

ひろすけさん

音場を録るなら、逆にピンポイントマイクが王道のような気がします。音楽じゃなくて、音場そのものをメインにするなら、ダミーヘッドですけど。ああ、でも、ダミーヘッドで小編成とかギターとか録音したら、どうなるのか興味あるなあ。

よくやるピンポイント録音のマイクは、2本を30cmくらい離してポールの先につけたやつ。オーケストラ録音の世界では、マルチチャンネルの時代になって、音場感はかなり後退しちゃったように思います。そのかわり、各楽器のバランスは破綻しないですけど。

最近、PCM録音できる機材がめちゃ安になってきたので、また録音の趣味が復活するかもしれませんね。2ch再生で、前後左右上下の音場表現ができるということが、あらためて世間に「発見」されると面白いのだけど、今、5本のスピーカーをどう鳴らすかというのがニーズだからなあ。

追記:

結局、音場感というのは位相差で表現するわけなので、マイクの数が多くなるほど、現場の位相を再現するのがむずかしくなるわけです。だから、人間の(動物も一緒だけど)耳と同じように、LとR一本ずつのマイクを、左右の耳の距離と同じくらい離して(かなり近い)録音したものを、できればフルレンジユニットで(これもマルチユニットはネットワークや各振動板の素材差が位相を乱すので)再生すると、理想に近づける、ということになる。ということになっております。

最近は、高価なダミーヘッドではなくて、リアルヘッドでやる人もいるんですね。
http://portal.nifty.com/2007/06/20/c/

確かに音場ということであれば、おっしゃるとおりでしょう。
ただ、音楽的にどうか?というとこれはまた別物でしょうね。
例えば、PAなしの弾き語りを生で聴いた時の音の再現は絶対に無理だと思います。

耳とマイクでは音の捕え方が違い過ぎますし、生で聴いてる時は、脳内ミキサーでうまいこと調整してますので、音楽的再現ということであれば、マルチマイクで録ってミキシングで音場を作って、その記憶に近づけるしかないのではないか?と思います。
写真でいうところの記憶色の概念に似ていますかね?

色々な楽器を録ってきましたが、アコギは難しいですね。
たぶん、楽器全体が響いて鳴っていること、楽器の大きさ、などが要因なんでしょうけど、マイクのベストポジション探しは毎回試行錯誤です。

ステレオ再生にも少数ながら音場派というのがいて、まさにその現場の音を再現したいと願うわけですが、今は、その音源がなかなかないですね。

手持ちでは、シェフィールドのモスクワフィル+リンカン・マヨルガの「サマータイム」が、かなりオフのピンポイント録音で、音質・音場ともに優れていますが、思いつくのはそれくらい。いわゆる優秀録音盤を集めれば、その中に、ピンポイント録音ものが(特にクラシックは)いくつもあるのでしょうけど。

音像と音場のちがいは、かなり長いことやってるオーディオファンでも混同していることが多いので、あまり関心をもたれてこなかったのか、そういう装置が(特にスピーカーが)なかったのだろうと思っています。

2本のマイクでうまく録れば、2chで前後左右上下の音場空間が表現できるということ、信じないオーディオファンも多いのですが、その前提になるリニアリティの高いスピーカーが、理想的には、そして事実上、高能率フルレンジくらいになってしまうので、いよいよ使う人は少ないですしね。

音そのものの再現ということでいうと、オーディオは、たしかに記憶色だろうと思います。では音場はどうかというと、これはリアルに感じられる人と、まったく音場を感じない人がいて(スピーカーマトリクスも同様で)、どうも位相を感じる感覚には、かなり幅があるんだろうなと思います。面白い世界だと思うのですが、受け取る側の個人差が大きいので、やはり主流にはならないのだろうなあ。

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