2009年2月15日

独断と偏愛

避けたい言葉というのがいくつかあるが、「独断と偏見」というのは、たぶんTOP5に入る。70年代頃に、この言葉が出てきた頃には、まだカジュアルな感じが勝っていて、それなりに使えたけれど、あれから、もう何年たってると思ってるの。

わけのわからない子どもが使うのなら、仕方ないとしても、われわれの業界の打ち合わせの席などで、この道何年なんてプロが「私の独断と偏見で選ばせてもらいました(ニコニコ)」なんてのは、「ちょっとなあ」と「バカじゃない?」の間くらいの感じを受ける。

われわれが仕事で選んでしまったものは、最低でも数万人の目に届く。それにお金を払う人もいる。仕事でなくても、多少なりとも「公」の要素が含まれることであれば、同じことだろう。だからといって、びびってしまってはよくないし、おれの個がつまり普遍に通じるのだというくらいの気概はあった方がいいのだが、独断と偏見というのは、それ以前の話のように思える。

「独断」はいいのだ。オトコとして、プロとして、おれがそう決めたんだ。おれがそう思うんだ。文句あるか。というのは、いい。賛同はしないかもしれないけれど、受け入れはする。そこには一応、最低限の決断と覚悟があるからだ。

問題は「偏見」である。これには覚悟などはない。それがジョークとして通用したのは、もうはるかに昔のことなのだと、少なくとも言葉に関わってゴハンを食べている者なら、わきまえておかなくてはならない。大体、偏見というのはまちがった了見ということであって、いくら冗談めかしたところで、言葉のもつマイナスの波動が消えるわけではない。

もともと「独断と偏見」というのは70年代の雑誌メディアから始まった。元ネタは、オースチンの『自負と偏見』あたりであろうかと思われるけれど、出自はともかくとして、一般に広く認知されるようになったのは、70年代の雑誌メディアということでいいと思う。

それは、それまでのメディアのもつ公的な属性というか、メディアは社会の公器であるとか、つとめて客観的でなくてはならないとかいう、目に見えないオモシから自由になろうとする個としての編集者の決意表明であったり、個の価値観を(読者の共感を盾にしながら)、その公の部分にぶつけてしまおうという、先進的な編集手法であったりしたわけだ。したがって、当初、それはひとつの戦いでもあったと思う。

それが、ここまで広く敷衍したのは、つまり公なるものへの有効なカウンターパンチだったからだ。カウンターであるからには、相手から先にパンチを出してくれなくてはならない。なのに、相手はすでにスクラップとして解体され、世の中、個と私だけになってしまっているのだから、カウンターパンチはむなしく空を切ることになる。

そういう無意味さ以上に、第一、言葉として面白くもなんともないじゃないか。

親父ギャグという言葉を、ぼくは嫌いだけど(これをいう若い衆で、面白いやつに会ったことがない)、「独断と偏見」などは、まさにオヤジ的であると思う。つまり、鈍くて、図々しくて、機知がなく、面白くない。オヤジの美徳である、親和とか余裕なども、もちろんない。

となると、対処は二つ。言葉を置き換えるか、まったく使わないかだ。最近、置き換え候補として、ちょっといいなと思える言葉に出会った。

「独断と偏愛」である。おすすめはしませんけどね。

女性が使うならばどうなのかというと、これはまったくスルーであります。男と女は、言語的には別の生きものなので。

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コメント

「独断と偏見」ですか、久しぶりに出会った言葉だな~。学生時代に流行った気がする。
「独断」って言葉は比較的耳にする。僕なんて年中言われてる気がするしね。まあ、人を使って仕事する立場なんで、最終的責任を取る人間としては「独断」って言い切るしかないものね。「協議」で決めたんじゃ責任取れない。
敢えて言うなら、僕の「独断」には気がつかないうちに、僕の「偏見」が入り込んで居るに違いない。恥ずかしいけどね。

仕事の進め方で、一番苦手なのが「協議」ですね。当方でやることはないのだけど、先方がこれで進められると、結局、誰がどんな意図で出してきた意見なのか見えなくなって、当然、誰も責任をとることもないので、わけがわかんなくなります。まあ、最近は行政の仕事が多いので、それにも慣れてきたけど、最初はどうなってんだろうなあと思った。

独断というか、決断というか。ものごとはっきりさせるのが、責任のある立場の人の仕事なので、独断上等と思いますよ。これがまったく苦手な人も多いですけどね。

最近(といっても70年代ですか・・・)出来た言葉なのですね。
仲間内の飲み会とかでビンゴゲームの商品が余ったときに、「俺の独断と偏見で、美奈(仮称 ^^; )ちゃんにあげま~す」的な使い方をする時にはお似合いの言葉だと思いますが。(爆)

「じゃあ、おれからのプレゼントってことで」かな。じゅん坊さんだと^^;

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