2008年7月18日

宮崎の焼酎のこと

仕事で記事を書くために、あちこちの蔵元さんにお世話になったりもしているので、自分の好みを書くというのは仁義に反するのだけど、友だちが焼酎を好きだというので案内のために書いておこうと思う。もちろんすべての銘柄を飲んだわけではないので、個人的な感想の範囲。

まず宮崎焼酎の特徴としては、アルコール度数が20度であるということがある。おそらく、日本の焼酎で20度というのは宮崎だけだ。これは戦後、酒税法が改正された時、20度だと税金が安くて価格を低く設定できたという事情があるらしい。宮崎は密造酒が多く(それが文化なので、法律の方が非文化的なのだが)、できるだけ価格を抑えることで正規品へのシフトを促す狙いもあったのかもしれない。

ただし、これは田崎真也さんから聞いた話だけど、なべてアルコールというのは15~17度前後がもっともおいしく感じるものであるらしい。ワインも日本酒も、それに近い。25度の焼酎だって6:4のお湯割りにすれば、それに近づく。宮崎焼酎は、だからロックがおいしいし、ストレートでもおいしい。

そういうわけで、ここ数年、お気に入りの宮崎焼酎について。ただし1升3000円を超すものはのぞく。私見だが、毎日飲めないものは焼酎ではない。


【御幣】(姫泉酒造/日之影町)

芋のしっかりとした香りがありながら、水のような飲み口の軽さ。通常、フーゼル油などの不純物をのぞくためにマイクロフィルターをかけるのだけれど、ここは表面に浮いてきたものを人がひしゃくですくう。フィルターをかけずに、この軽さを出すというのは驚異的なことだと思う。神楽の夜に、お煮しめを食べながら飲むにはこれしかないよなあという、山の澄明な冷気のような味がする。社長含めて三人というミニマムな蔵。日之影町の五ヶ瀬川沿いの小さな店。


【無月・夢】(櫻の郷醸造/北郷町)

焼酎というのは、本来作ったはなから売ってしまうものなのだが、これは陶製の甕で貯蔵してから出荷する。味わいは重厚なのに飲み口は軽いという不思議。度数は25度あるけれど、どうかすると平凡な20度よりも軽く感じられる。ぼくの宮崎焼酎ベスト3に、たぶん入ってくる逸品。


【時代蔵かんろ】(京屋酒造/日南市)

京屋酒造は、「甕雫」のヒットで名前が知られるようになったけれど、製法は大正時代からあまり変わっていないように思える。まず、おばちゃんたちが芋の皮をむくのだが、きれいにむいてしまえばいいというものではなくて、どの部分の皮をどのくらい残すのがベスト、のようなアナログなノウハウが濃く蓄積されている。そして、宮崎駿夫のアニメに出てきそうな煉瓦造りの、非常に扱いのむずかしそうな蒸留機で蒸留し、それを土に埋めた甕で熟成する。このとろりとしたこの味わいはちょっと比類ない。


【明月】(明月酒造/えびの市)

本格焼酎というのは、これ。といえる。あくまで芋の風味が濃く、まるで時代に迎合する気配がない。これを飲みつけてしまえば、ほかに目移りすることはないのではないか。こんなはっきりとした蔵を持つ地元の人は、それだけで幸せだと思う。昔、冠婚葬祭、いずれの時にも南九州の座敷に漂っていた香りは、これではないかと思われる。ハレの料理としての煮しめも、これはどうしても地鶏でダシをとったものでなくてはならない。宮崎を代表する硬派。


【西の都】(西の都酒造/西都市)

2008年2月にオープンしたばかりの、ぴかぴかの蔵。いわゆる観光蔵元なのだけど、施設が大がかりなわりには銘柄は西の都の白麹・黒麹の二種しかなく、そのレベルはあっと驚くほど高い。特に白麹は、甘く華やかな香りがあって、味わいが深く、どこに出しても日本代表の看板を背負えるほどのもの。焼酎ブームで、どの蔵も原料の確保に大変なのだが、ここは地元西都産の黄金千貫を、同じく地元の伏流水で仕上げる。


【黒霧島】(霧島酒造/都城市)

どこでも買えて、いつでもおいしい。とにかくこの銘柄のロックが、焼酎のイメージを変えてしまったと思う。レベルは相当に高いのだけれど、大手の強みで決してプレミアになったりしない。はっきりいうけど、芋焼酎にプレミアだとかいって騒ぐのは馬鹿だと思う。あるいは商売として、焼酎のためにならない。


【呂山】(雲海酒造/綾町)

そば焼酎で全国に知られた大企業の蔵元が、わざわざ手作り・少量生産のアナログな蔵を開いた。内部的には技術の継承のためだという。そこでできる黒麹・甕仕込みのそば焼酎。通常は減圧蒸留するところを、味が荒々しくなる昔ながらの常圧で蒸留して、その分、長く熟成させる。普通は、仕込みから1年で出荷できるものが、この方法では2年かかってしまう。それだけの手間をかけるのに見合う仕上がり。最初のインパクトは芋焼酎かと思うほど強烈だけど、味わいは非常に甘い。陶然となるおいしさ。


ほかにもいろいろある。総じていえば、宮崎の焼酎は地元で飲まれることを前提にしているので、あまり質の変化はなく、どれもおいしいと思う。

それにもまして。

これも田崎真也さんに、いろいろとうがった質問をした時に言われた言葉だけれど、彼は「そんなことよりもさあ」と、地に戻っていった。

「誰と飲むかが大事なんじゃないの」

そうだと思う。

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コメント

韓国釣行時の知人へのお土産は度数の高い焼酎を熱望されます。

韓国の焼酎は年々度数が下がってきているとか。
肝硬変で倒れる人が多いからだそうです。
とは言えホワイトリカー持って行く訳にもゆかず、古酒と泡盛を免税店で買って持ってゆきました。ストレートで飲むんですよ。

ワタシは下戸ですが新潟で学生時代を過ごしましたので、いろいろとお店のお付き合いがありまして、今年のお中元は越後の焼酎を送りました。八海山がこの夏から製造を始めました。越の寒梅も焼酎あります。

以前、人吉の酒屋で見たのですが、一升瓶が3本単位で縛ってありましたね。挨拶や贈り物は2本が一般的だと思いますが(^_^;

秋山さん

韓国の人の飲み会は、激しいですね。何度かご一緒しましたけど、ご一緒するというよりは巻き込まれるといった具合で、とにかく飲め飲め、まあ飲め、さあ飲めと。

男らしさとかタフネスさとかの価値が、日本よりもぐんと上なのだなあと感じました。あの鉛筆のキャップにも似た独特の形の、ちっちゃいストレートグラスで、息を継がずにウイスキーなり焼酎なりを飲むわけで、度数が低いともうひとつ気分が出ないのでしょうね。沖縄の古酒なら、ウケたのではないかなあ。

焼酎三本シバリは、なかなか存在感がありますね。鹿児島や宮崎では(おそらく人吉あたりもそうかなと)、人の家に持っていくとまず神前に供えるのですが、それが二本と三本とではインパクトがちがいます(^^;)。

かつてのFFISHER、きゃびんに居られた蔵仁さんが、実は東京の大森で、「日本酒と焼酎ばー“仁助”」を開店されまして、頑張っておられます。

http://blog.livedoor.jp/jin.okd/

JUNさんがリストアップされた霧島ですが、僕は20年前に最初に飲んだのは元祖「白」の方の霧島でした。当時、芋焼酎で九州以外の地で入手できるものというと、白波ぐらいしかありませんでした。20年前の僕らの芋焼酎の味の基準は白波だったのですが、初めて宮崎から来た旅仲間に、北海道の地で白の霧島を飲んだ時には凄く美味しく感じました。

ちょうど数日前、蔵仁さんが白の霧島の入荷を始めた旨、ブログに書かれていますので、良かったら読んで上げて下さい。

と~るさん

白霧島は、量的にいえば今でも宮崎で一番飲まれている、代表銘柄だと思います。昔、といっても25年前とかそこら、焼酎のマーケティングが町内単位に限られていた頃に、初めてひとつの銘柄が県内を席巻していったという経緯があります。

それはマーケティングのうまさが第一にあるのですが、あの飲み飽きしない、当時の基準では非常にライトだった味わいが、暑い宮崎の気候によく合ったということもあるのでしょう。味の点でも、白霧島は宮崎焼酎のひとつの基準になっていると思います。蔵仁さんが書かれている通り、東京で飲もうと思えばお得といえる焼酎と思います。質的にも量的にもきわめて安定していますし。

宮崎行って焼酎めぐりのほうが、よさげだな~♪

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