2008年5月10日

映画>さよなら、さよならハリウッド

『さよなら、さよならハリウッド』(ウディ・アレン監督/2002)。

かつてオスカーを2回も獲った大巨匠監督が、今は極寒のカナダで脱臭剤のCMロケ。それも途中でクビになって帰宅すると、ただ映画に出たいだけでひっついている若い恋人が、そんなに愛しているという風でもなく迎えてくれる。

ハリウッドのメジャー資本ギャラクシー社でプロデューサーを務める前妻は、不倫の末に同社の経営者と婚約中。その前妻の推薦で、予算6000万ドルの超大作の監督をまかされることになるのだが、心身症が昂じてこのウディ・アレンの監督は、クランクイン初日から失明してしまう。この仕事を逃したら、もう自分は浮かび上がれないということで、目が見えないまま撮影がスタートする。というお話。

メニエールという病気は、体がひどく疲れるもので、今、ワタシの体は肩こりと疲労感がどどっと押し寄せて、ほぼ74歳9か月しかもメタボで鬱病でゲートボールもしないから、コート恋愛にも縁がなく、孤独をいつのまにかさびしがり屋と勘違いしてきざな台詞を並べ立てるそんな自分をみた、というような状況である。今ほど、お年寄りの気持ちがわかったことはない。しかも肩こりからきているのか、右手はしびれ、右肘の関節もマウス肘でおかしい。

とはいえ、ほんとに徹底的かつ圧倒的にネガティブな状態にある時は、なかなか映画を観る気力もわかないので、今のところ「ちょっと凹んでみました」というくらいのものなのだろう。体がまいっているのに心だけ元気というのも変なので、これはこれで自然なことではある。

そういう時に、セレクトしたくなる映画は大体決まっている。それはたぶん、ぼくにとっていい映画なんだろう。癒しとかナゴミとかゆるゆるとか、そういうへなちょこな言葉でモノゴトを粗雑にくくってしまう感性が、ほんとに苦手なのだけど、まあ、方向としてはそういう映画になる。俣野美穂流にいうと寝る子は粗雑ともいう。

で、輝け全日本ちょっと凹み加減で思い出す映画ベスト3ただし本日限定バージョンは、以下のようなラインナップになった。

第1位『三文役者』(新藤兼人監督/2000)
第2位『黄金狂時代』(チャールズ・チャップリン監督/1925)
第3位『ウディ・アレンの一連の作品』

『三文役者』は、荻野目慶子の河内音頭を見たい。桂南光のエラの張った顔を見たい。竹中直人の殿山泰司の純情で無垢で一徹で愚かで見苦しくて美しい姿を見たい。とにかく、あの映画の世界のヒトビトにまた会いたくなる。心がヨワッたりした時に、彼らに会えるというだけで、いいことだと思う。

『黄金狂時代』は、前半の金鉱掘りのドタバタの場面だけでもいいから見たい。あのビッグなんとかいう大男が、頭を打って寄り目になり、記憶を失いながらそこらをさまようシーンだけでもいい。

それから、ウディ・アレン。このハイパー・インテリジェンス・コメディ。自分を笑いのアイコンにすることで人を救う。人は救わなくても、ぼくを救う。困った時は、この人の困ったような顔を見るだけでよい。いくら困っても、あんなに困った顔はしていないはずだ。

昔、白犬の顔にマジックで眉毛を描いたら、ものすごく困ったような顔になって笑いこけたことがあったけれど、ウディ・アレンはあの白犬である。万人に与える優越感が彼の笑いと救いのひとつの実体であることに気づく。しかもそれは一瞬であり、後の大半の時間はその才能と言葉に巻き込まれていく。『監督・ばんざい』の時に、ウディ・アレンとの類似性のことを書いたけれど、われながらちと野暮なことを書いてしまったかもしれない。

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コメント

JUNさん

ウディ・アレンの作品は「はて、何観たっけな?」というところで、
くわしくはないのですが、洗練されたユーモアという印象がありました。
ちょっと日本人の習慣や感性では理解しにくいところもあったように
思いましたが、はて何観たんだっけか?(^_^;)

映画を描いた映画ということでは、昨日「オリヲン座からの招待状」
http://www.orionza-movie.jp/
を観ました。
浅田次郎の、10分もあれば読めてしまう短編が原作ですが、よくぞ
あれだけふくらませたものだと感心しました。
ちょっと「ニュー・シネマ・パラダイス」っぽいところもありますが、主演
の宮沢りえが抜群に素晴らしい!
私生活で、だいぶ紆余曲折があったり、辛酸を舐めたりしたようですが、それがすべて芸の肥やしになったような感じで、もはや大女優
の風格さえ漂います。

ひろすけさん

「オリヲン座からの招待状」、面白そうですね。もうDVDが出ているんですね。ここ数年、「なんとか座」というような小さな映画館が、めっきり少なくなってしまって、うちの近所でもポルノ館が一軒とNPO館が一軒残るのみとなりました。

JUNさん

古い船には新しい水夫が乗り込んでいくのでありまして、古い船を今動かせるのは、古い水夫じゃないのでして、映画を観るスタイルも変わりゆくのは時代の趨勢でございましょう。
(このフレーズをわかる人は、今どれだけいるかな?(^_^;)

先日、3曲、2ステージほどでしたが小さなライブハウスで二胡の伴奏でギターを弾いてきました。
(中国民謡、スカボロフェア、コンドルは飛んでゆく)
人前で弾いて、拍手とアンコールまでもらうのは、やっぱり気持ちいいもんですね。病み付きになりそうです。

こんなのも見つけました
http://jp.youtube.com/watch?v=5ROOowtIKSA

まあ、地場の映画館の衰退については、ぼくのような者が一番けしからんのですけどね。何しろ自室でDVD鑑賞しかしていないわけですから、映画会社は儲かっても映画館には何の利益ももたらしていない(^^;)。

あとは、地方の場合中心商店街の衰退と、きれいにリンクしているわけで、郊外の大型モールに人が流れ、そこにシネコンができて映画ファンもそこに流れという塩梅で、昔からの映画館はどんどんキビしくなってきたのでしょう。それでも、昔からの映画館特有の、独特の空気感のようなものがなくなってしまうのは、さびしいと思います。ぼくのような者ですら。

「旅の重さ」まだ観てない(^^;)。そろそろ、観ようかなと思いつつ。

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