2005年7月19日

徳山と三沢と天山

18日は格闘系の特異日だった。まずWBCスーパーフライ級タイトルマッチ12回戦、王者川嶋勝重×挑戦者徳山昌守。結果はご存知の通り徳山の判定勝ち。ジャッジによっては9ポイント差と、ほぼフルマークに近い差がついたけれど、実際、ジェネラルシップは徳山が握った。

距離をとってワンツーを打ち込むアウトボクシングのお手本のような試合。そのワンツーがラウンドが進んでも形が崩れない。ひさしぶりに、あんなにきれいで強いストレートを打ち続ける選手を見た。距離をとる、というけれど基本はステップと上体による出し入れであって、高い集中力とスタミナが必要だから、そんなに長いラウンド続けられるものではない。疲れてくるとクリンチに逃げる選手が多いのだが、徳山はクリンチの技術も高かった。ホールドにはならないで、上体をあずけるようにして相手の距離をつぶしてしまう。

川嶋はおそるべきパンチ力の片鱗は見せつけたが、3ラウンドくらいから距離とリズムを自分のものにしてしまった徳山を崩すことができなかった。それでも、ワンパンチで形勢を変えるだけの力と殺気は感じられ、互いにクリンチによる膠着が少ないので非常にいい試合になった。これがスーパーフライ級(昔のジュニア・バンタム)とは信じられないほどの一撃必殺の緊迫感とスピードがあり、軽量級のイメージを超えた試合でもあったと思う。

この試合を見終わってチャンネルを変えると、ノアの三沢光晴×川田利明をやっていた。エルボー14連発を叩き込んで三沢の勝ち。東京ドームに6万人を集めたということで、開催頻度はともかく集客でも新日本を超えてしまった。

実際、カードも魅力的で、力皇猛×棚橋弘至のGHC戦、小橋健太×佐々木健介のほかに、GHCタッグとGHCジュニアのタイトル戦も組まれた。そのメインとしての三沢×川田戦であり、ここらの試合の組み方は一人ひとりのキャラをきちんと立てて、大事に育ててきた三沢社長の農夫的育成のきめこまやかさと、よそからの風をたくみに取り入れた現時点での集大成といえる。ファンは、常に間違いのないものを提供してくれる三沢の誠実さに安心してチケットを買うことができるのだろう。中島らも的にいえば「どう転んでも、おもろうはなる」という信頼。これが、ブランドと呼ばれるものになる。

かたや札幌月寒ドームで行われた新日本のIWGP戦は、ほとんどマスコミも取り上げず、さびしい扱いとなった。天山広吉×藤田和之というカードを、IWGP戦としてノアのドーム大会と同日にぶつけるということは、現時点の新日本のベストを提供したつもりなのだろうが、そのインパクトは寒々しいものになってしまったようだ。

大体、藤田和之にプロレスをやらせるというのは無理だ。彼はほとんどプロレスをやったことがない。格闘家としての凄みを見せる、ということなのだろうが、その相手が天山ではまた無理だ。彼はプロレス以外はまったくやったことがなく、プロレスラーとしての凄みを見せるには性格が優しすぎる。

三沢が(制裁として、との伝説つきで)ベイダーの肘をへし折ったような怖さもなく、もちろん橋本×小川のような凄惨さも体験していない。かつて一瞬だけキレた坂口征二が、ベイダーを「押し倒し」で倒したような飛躍も見たことがない。あくまでプロレス内プロレスの人なのだから、彼しか藤田を迎え撃つレスラーがいなかったとすれば、新日本の人材払底もさびしいものがある。

昨夜、一番ワリを食ったのは、タイトルマッチでありながらメインの4試合も前に力皇に負けなくてはならなかった棚橋ではなく(彼は月寒でどうでもいい試合を組まれるくらいなら、昨日のドームにいた方が幸せだったろう)、IWGP選手権を最強の挑戦者と戦い、タイトルも失いながら、ほとんど無視されたような扱いをされた天山広吉だった。

何しろ日刊スポーツの見出しが「藤田、天山を倒し橋本さんに捧ぐ」だ。写真は試合中のものではなく、橋本真也の遺影に祈る藤田だ。何なのだこれは。しかも、彼には「次」の展開もストーリーも見えてこない。そろそろ、モデルチェンジを考えないと、あのナイスガイな「牛」は輝きを失うかもしれない。

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