岩城宏之を読んでみる

中学校から高校に上がる前の春休み、というのかなんというのか、とにかく中学の卒業式を終えて高校の入学式を迎える休みの間の春の日に、FMラジオから岩城宏之のトツトツとした声が流れてきたのであった。なんでも、「若い人たちへの…」みたいな番組だったと思う。
岩城さんは、
「人間なんて、しょせんたいしたことはできないと思うんですよ」
「たとえばベートーベンが一人で9つの交響曲を書いたりして、どれもすごい曲で、音楽的にはもう、ものすごいんだけど、でもそれで地球の軌道が変わるわけじゃない」
「まして、私なんかが何をやろうと、たいしたことはないわけです」
「なんだけど、でも、何かをやろうとして、一所懸命ジタバタする」
「みんなそうやって、ずっとジタバタジタバタやってきたんですね、きっと。」
「そういうジタバタさ加減こそが、人間の価値なんじゃないかと思うわけです」
のようなことを言っていた。「ジタバタ」という時に、うまく舌が回らなくて、あるいは江戸っ子的に回りすぎて、どうも幼児のような変てこな発音になるのだった。
それ以来、岩城宏之という人が好きになった。そして、この言葉にずっと救われ続けてきた。人生はジタバタし続ければ、それでよいのだと。
エッセイもたくさん書いていて、「森のうたー山本直純との芸大青春記」と「フィルハーモニーの風景」は読んでいた。どちらも面白かったので、今回、「楽譜の風景」「九段坂から」「指揮のおけいこ」「音の影」「オーケストラの職人たち」をamazonでまとめ買いして、ぽつぽつと読んでいる。
一冊選べというなら「森のうた」。芸大打楽器科の二期生として、上野の山で山本直純や林光らと過ごした日々のお話。