かもめ食堂

『かもめ食堂』(荻上直子監督/2005)

やっぱり人の話は聞くもんである。昨年5月の時点で、ひろすけさんから「今のところ今年の僕の最優秀作品」と紹介のあった『かもめ食堂』。なんともいい味のある作品だった。

主人公サチエさん(小林聡美)の、ものに動じない「中心力」に裏打ちされた存在のありようは、彼女が合気道をやっているというエピソードでちょっと紹介されていたけれど、日本女性のひとつの理想なんだろうと思う。肩ひじ張ることもなく、自然体であり、なおかつ世は移ろいゆくものであることを、心の深いところでしっかりと受け止め、にも関わらず、そんなに悪いことは起こらないという楽天。

たしかに、こんな女性でないと、ヘルシンキで和食の食堂をやろうという話にはならないのだろうけど、作中、ついに彼女がどういう背景で、こんな異国で一人で食堂をやっているかについての直接的な説明はなかった。そのことがまた、とても気持ちよかった。何も個の内側に入り込まなくても、個も、普遍も、ちゃんと表現することができる。そのへんの、登場人物との距離のとり方も、とてもよかったと思う。

ところで、航空会社の手違いで紛失したもたいまさこの荷物が出てきて、それをホテルの部屋で開けてみたらキノコだったとか、港で変なおじさんにネコを預けられたから、しばらくフィンランドに残ることにした、とかいう話は、あきらかにキノコか他の何かでラリっていたんだと思う。こういう、イリュージョンとか浮遊感のようなものは、旅の空気そのものだろうと思うし、ひょっとすると人生もまた、そういう具合で進んでいくものなのだろう。

ごちそうさまでした。