むかーし昔のその昔。「サラダをおいしく作れますか?」というマヨネーズのコピーがあって、あれはほんとに効いたコピーだったと思う。

正確には「あれできますか。これできますか。なにはどうですか」という問いがいくつか続いた後に、「サラダをおいしく作れますか?」とくるわけだけど、あのコピーの前後で世間のサラダというものに対する感覚を決定的に変えてしまった。

そうか、今時の女の人はサラダをおいしく作れないといけないんだ。そもそもサラダなんて、レタスとキューリとトマトのあれだろ。おいしく作るってどういうことなんだろう。まさか喫茶店で「グリーンサラダ 550円」なんて書いてある、あのようなサラダを家で毎日作れということなのだろうか。ほんとにそんな女の人がいるんだろうか。いるんなら、ぜひ結婚したいものだ。などと、まだ少年だったワタシの心は千々に乱れたわけである。

基本的にサラダは好きなのだけれど、サラダの達人と結婚したわけではないので、まあ、普通のものを食べてきた。レストランなどでも、これはというものに当ったことはあまりない。あえていえば、12年前に食べたグアムのコリドスという大衆レストランのサラダバーは、たしかに画期的においしかった。食材が多様であることが、その理由のひとつだったろうと思う。

なのだが、最近泊まったホテルのレストランの朝食についてきたサラダに、ちょっと目を見張るということがあった。レタスとキューリとトマトが主役という、ごくありきたりの構成なのだが、そのひとつひとつが味わい深く、これは相当に野菜を吟味しているにちがいないという感じがあった。

そしてドレッシングなのだが、塩と黒こしょうとオリーブオイルだけなのだった。このシンプルさのおかげで野菜のおいしさが引き立つというわけで、いつも味の薄い野菜をドレッシングの味つけで食べていたのではないかと気づく。

で、とりあえず家でもやってみようということで、黒こしょうの粒と岩塩とオリーブオイルを買ってきた。これらは高いものではないのだが、こしょうや塩を細かくするミルとかいうものがけっこう高価であり、1本2000円もする。それを二つ。

もうこういう風になってくると、サラダを食べるとか料理とかいう話ではなくて、趣味の領域に近い。アジシオとSB黒こしょうでいいものを、わざわざ粉にひくために4000円の投資というのは、例によって手段と目的が逆さまにならないとできない話であろう。

食べてみた…。うまい…。

以来、うちではドレッシングの購入をやめてしまって、岩塩+黒こしょう+オリーブオイルのみとなった。時々、バジルやオレガノを加えてみることがあって、それなりにいいものではあるけれど、最近ではそのくらいの広がりすらうるさく感じてしまう。削って削って削った先に見えてきたサラダの境地というものが、ここにあるのであった。

結論。
サラダをおいしく作るには、マヨネーズではなかったのでした。