15日午後6時30分。かごしま県民交流センター。

コンサートは、バッハのリュート組曲ホ短調(BVW1006/a)で始まる。6つの小品による組曲なのだけれど、2曲目が終わった頃にすでに意識がどこかへ飛んでしまっていた。「寝てる」ともいえるのだが、要するに世間のもろもろから切り離されて、夢を見てた。

ぼくは、ある種のクラシックとお能は「寝る」のがもっとも正しく幸福な鑑賞法だと思っているのだが、実際に夢を見られる演奏はそんなに多くはない。バッハはトビやすいのか、大萩康司の表現力なのか、とにかくぼくはコンサート冒頭から幸福だった。

3曲目、ガボットではっと目ざめたと思ったら、今度は音楽の抑揚に体が舞い上がっていく感覚。いきなり寝かされ、次にはどこかへ持っていかれたまま、バッハが終わる。

続いて、ヴィラ・ロボスの五つのプレリュード。例の前奏曲第一番から始まり、第五番まであるわけだけれど、生で通して聴いたのは初めて。こちらはヴィラ・ロボスだけに寝るどころではなくて、情感だの感情だのが深まったり高まったり。意図しての構成なのかどうだか、感覚を好きなように揺さぶられているような気がする。

休憩後、一転してレイ・ゲーラ、レオ・ブローウェルといった現代のキューバものが5曲。「その明くる日」で終了。アンコール一曲目は「鐘のなるキューバの風景」。アンコール二曲目、「タンゴ・アン・スカイ」を予想していたら見事に裏をかかれて「アルハンブラ」でお別れ。いい小説を読み終えたような感じで、しばらく、椅子から立てませんでしたわ。

コンサート終了後、サイン会。一人ひとりと笑顔で語り、丁寧にサインをするものだから約40分かかる。最後の一人のサインが終わった後、名刺を渡してご挨拶。雨の天文館をふらふら歩いて懐かしの「一代」にちょっと寄り、ホテルへ帰る。

翌16日、午後4時。福岡市のフォレスト・ヒルでインタビュー。こちらは前夜のコンサートの余韻が残っているものだから、インタビュアーというよりもファンの感覚に近かったかもしれない。もちろん、あまりいいことではないのだけれど、大萩康司という人の誠実な受け答えに、ますますこの人が好きになる。どんな人だって好きになるだろう。応援したくもなる。どこまでも伸びていく人というのは、みんなこういう人だ。

インタビューが終わってギターの話になり、フォレスト・ヒルの森岡氏に「おすすめの製作家はいますか」とたずねると、「丸山太郎さん」という返事。スプルース、ハカランダ、セラック仕上げのものすごく軽いギターを出してくれて、それを大萩さんが弾いてくれた。約30分間、彼はそうやってぼくの前でギターを弾き続けてくれた。

丸山ギターの話は、また書こうと思うけれど、とにかくあれから2日間、そのギターのことが頭から離れない。2日前までは「好み」とはほど遠かった音なのに、今はすっかりその抑えた叙情性が心をとらえてしまっている。それが丸山太郎の力なのか、大萩康司という演奏家が出してくれた音の力も加わっているのか、冷静に判断することもできない感じで、どうも魔法にかけられているようなのだが、この魔法、いつとけるのだろうか。とけないのだろうか。

大萩康司オフィシャルサイト
http://www.jvcmusic.co.jp/ohagi/