本>下落合シネマ酔館
こないだ浦安のやまさき十三さんを訪ねた時、この本をもらった。十三さんと赤塚不二夫の映画に関するスラプスティックな対談集である。
やまさき十三さんは、『釣りバカ日誌』の原作者であり、ちょっとジャック・ニコルソンに似た渋い風貌のお方である。なぜだかぼくはこの方と縁があり、お会いするのは三度目だった。最初は取材旅行に同行、二度目はイシダイ釣りに同行したのだが、律儀な人でちゃんと名前と顔を覚えていてくださり、南九州人特有の(というか旧薩摩藩特有か。ぼくは鹿児島で十三さんは都城)温かな諧謔ともいうべき気質を共有しているので、どうも話がはずんでしまうわけである。
十三さんのことはいずれ書くとして、『下落合シネマ酔館』。この本を読むまで、赤塚不二夫がこれほど無茶苦茶な人だとは思わなかった。好きになった。もっと早く好きになればよかったと思う。今、赤塚さんは重病だと聞いた。
本としては構成者の演出過多ではあるが(本物の十三さんは、この本で連想されるようなインテリ系ウルサ型ではない。謙虚でおだやかで男らしく、かつ愛嬌があって冗談が好き、というタイプなのだ)、書いてあることはまともだ。特に赤塚さんのコメントが凄い。一部抜粋する。
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赤塚:角川春樹まで監督するんだからね。あいつが警察に捕まったのは、下らない映画を作ったからだよ。警察もヤクだけなら許したんだろうけど、あいつの映画だけは許せなかったんだよネ、きっと。
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(シンドラーのリストを、へべれけで観に行き、ずっと寝ていた赤塚。時々、銃声で目が覚めるが目は覚めても酔いは覚めないとかで、結局寝ていた。この対談も、終始飲みながら行われている。)
赤塚:うん。俺も良い映画だと思うよ。
十三:でも、観てないんでしょ?
赤塚:観なくても分かるよ。スピルバーグは良い監督だからね。
十三:ずいぶん乱暴な評価の仕方ですね。
赤塚:それで良いんだよ。今まであいつが撮ってきた映画は、ガキ映画だって言う奴がいるけど、でも実際面白いじゃない。それはあいつがちゃんと少年の心を持ってるからなんだよね。
十三:インディジョーンズとかETとかね。
赤塚:みんな面白いよ。俺たちでも童心に戻れるじゃない。そこへ行くと大林宣彦が撮った「水の旅人」は酷い映画だよ。少年の心を一かけらも持ってない奴が撮った映画だね。
十三:僕も大嫌いですね!
赤塚:観たの?
十三:赤塚さんが、嫌がる僕に無理矢理この映画のビデオを見せたんでしょ!
赤塚:そうだっけ?でもお陰でこの映画を嫌いになれたでしょ?
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これからはちゃんと映画を観なくてはいかんと思った。赤塚不二夫がいいという映画なら、なんでも観たい。ビリー・ワイルダーから始めよう。
『下落合シネマ酔館』(小学館 96年12月発行 1500円)
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