『怪盗ルビイ』(和田誠監督/1988)。

ぼくはこの手の、「キャー」といってどこかへ逃げ出したくなる、気恥ずかしいサスペンスものがまったく駄目なのだ。映画館だといちいち逃げ出していられないのだが、そこが自宅DVDのよいところで、上映中、4回ほど逃げ出した。

サスペンスと書いたけど、普通のヒトには単なるロマコメなんだろうと思う。ぼくには「とても画面を直視できないシーンが連続するスーパーサスペンス」だった。映画は、犯罪者になりたいスタイリストの女の子(小泉今日子)が、アパートの階下に住むさえないサラリーマン(真田広之)をそそのかして、さまざまな悪事を企むという設定で、ひったくり、銀行強盗、宝石詐欺、空き巣狙いなど次々に計画・実行するのだけど、当然、うまくはいかない。

昔の、本筋のギャング映画なんかだと、悪い人相の悪い男たちが悪いことを企んで、あと一歩でうまくいきそうになるところまでがんばって、結局はうまくいかない。そのサスペンスと滅びの美学みたいなものが定番としてあるわけだけど、こちらは、同じうまくいかないにしても、そのはらはらどきどきぶりが、まるで子供の頃のイタズラを見つけられたような、身に迫るどきどき感があって、とても耐えられなかった。

まず、銀行強盗のところで、オシッコに行った。宝石詐欺のところでは、階下に水を飲みに行った。高級マンションに忍び込むシーンでは、やはり階下に降りて猫と遊んだ。で、そろそろやばいシーンは終わっただろうと部屋に帰って、そろそろと画面を見るのだから、この映画の重要なシーンは、ほとんど観ていない。たぶん二度と観ることはないと思う。

それでもこの映画、あの田中小実昌がけっこう高く評価していて、「なーんにもないようなところが、和田誠監督がほんとに映画が好きだということを思わせる」みたいなことを書いていた。だから、観る人がみれば、いい映画なんだろうと思う。ぼくも、悪い映画だとは思わない。ただ、「キャー」といって逃げ出してばかりだった。

ところで、真田広之が小泉今日子の持ちかける企みに、「いやだ」「絶対やらない」といって、次のシーンには現場でそれをやっている、という繰り返しがこの映画のひとつのリズムになっているのだけど、これ山中貞雄監督の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(1935)だね。和田誠は、もちろん意識してやっているわけで、こういう映画ファンがおっと反応するような仕掛けが、たぶんあちこちにあるんだろうと思う。