2006年12月22日

夕闇のアガニア湾でバラクーダを釣ること

- FFISH MES(14):し■ナ ブ ラ■(海のルアー&フライ) 94/12/06 01:39
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3日前の昼下がり。僕は、妻と子を連れて、グアム島のアガニア市にあるパセオ球場レフトスタンド裏の地磯にいた。

地磯といっても、芝や松が植えられた小さなグリーンベルトの先に、ちょっと岩場があり、その先は港の水であるというようなところで、沖側の石積みの波止に守られて、静かなもの。風もない。雲もない。

ここは、アガニア湾に突き出した小さな岬が、まるごと運動公園になっていて岬の先端には高さ3メートルの自由の女神などというものがあり、フェイクのロレックスや(買った)、同じくフェイクのMCM(買った)などを売る露店が立ち並び、観光客の85%を占めるという日本人の島内巡りバスがひっきりなしに立ち寄る、観光名所であるわけだけれど、今考えても、どうしてここが観光名所になりうるのか、僕にはちょっとわからないほどごく普通の海の光景があるだけだ。巨人がキャンプするくらいで名所になるなら、宮崎市営球場の立場はどうなる。

とはいえ、海の形態としては、グアムではかなり珍しいことになっていて、なによりもここには港がある。主にトローリングやクルージングなどの、遊び船が停泊しているような港なのだけれど、遠浅のリーフか、断崖絶壁が多いグアムでは、たしかに港というだけでなんらかの観光価値があるのかもしれない。

そうそう、岬からの眺めもなかなかのもの。リーフに砕ける荒波の中で、サーフィンをしている人もいる。

「グアムで地のおいちゃん釣りをしたい」などという書き込みをタックルボックスにしていたら、出発間際に英人さんから電話があった。

「忙しくてRES書けずにごめんねー。ほんとは、会議室に書いた方が、いくらかでも 役に立ててくれる人がいるかもしれないのに、電話でごめんねー。」
「いやいや、何をおっしゃるうさぎさん。蟻が鯛なら芋虫ゃくじら。で、どこです」
「アガニアの船溜まりで、地のおっちゃんが晩ごはんのオカズ釣ってるで。ルアーでもええと思うし、冷凍のエビ買ってきて、死に海老撒きしたら、ちょっとえらいもんが釣れるんとちがうかな」
「それや。それでんがな。」

で、バックパックに振出のベイトキャスティングロッドをしのばせ、宿のあるタモンからグレイラインバスを乗り継いでここまでやってきたわけである。ちなみに、バスはギブソンズというマーケットで一度降り、アガニア行きに乗り継ぐのだが、このアガニア行きというのがトヨタエスティマ8人乗りでもう少しで見落すところだった。料金は、往復で6ドル。大体、1時間に1本。ギブソンズの近くには、【デジマストア】という釣具屋もあって時々、とんでもないバーゲンをやるそうなのだけれど、改装中で閉っていた。

港は、浅いリーフを削ってミオ筋を造ってある。その幅は30メートルといったところで、ここを通って外海の魚が港内を出入りするもののようだ。

さて、何が釣れるのか。とにかく、夜のポイントであることは確か。見ると、そこここで、地元のおいちゃんたちが竿を振っている。9ftほどのボートロッドのような竿に、でかいスピニング。メタルジグを投げている人もいれば、同じような竿で鶏のホルモンのような餌をつけてぶっこみ釣りをしている人もいて、なにやら魚の気配はたしかにする。

僕は、バスロッドに12ポンドライン。18グラムまでのジグを4つと、プラスティックワームを5本という最低装備。なんでもええんや。釣れたら。大体、こんなところでワームを投げた釣り人なんて島始まって以来とちがうか。ハタの類でも釣れたら、鍋にしてやろ。

なぜか関西弁で考えながら、しゅるるるとルアーを投げちゃ巻きしながら家族をしたがえて、少しずつ場所移動をしていたら、小さな子供がキャスティングをしており、そこへウチの子供が駆け寄っていく。しばらく見ない間にすっかり友達となり、ベンチに腰掛けて話をしていた。

ウチの子は朋佳という5歳の女の子で、地元キッズは6歳の男の子。トト君という釣師にはこれ以上ないような名前だという。しかし、二人は何語で話していたのであろうか。

子供二人が遊んでいるのをうっちゃって、とにかく投げちゃ巻きしているとどうも大声が、何度も聞こえる。僕を呼んでいるらしい。たくましく日焼けした、地元のおじちゃんたち10名ほどが、松の幹にシートを吊って日蔭を作り、盛大にビールを飲んでなにか食べている。

その中で、とりわけごつい、50歳くらいの見るからにボスといった風情の太鼓腹のおじさんが、あきらかに僕を呼んでいる。それに、どうもこの人たちも釣りをしているらしく、ぶっこみ竿が数本、かたわらで海に向かって立っている。

おお。これは、モノホンの地のおいちゃん。さっそく行って釣り方を教わるべえと家族を連れて「はははー、こんちわー」などと寄っていくと、いきなり「わははー、日本人かー。わかりませんー。ビール飲めー。いいから飲めー」ということになり、さっそく、1本いただくことに。

「飲んだか。もっと飲め。飲んだら食べろ。ほれー。マヒマヒもあるでよ。」何?マヒマヒ?みると大きな魚の胴体が、炭火で焼かれ鰹の生節のようになって皿に盛られている。それを手でむしり取って、かたわらのタレにつけて食べている。うまそう。そして、でっかい。

「これはあなたが釣ったのですか?」
「そうです。これは私が釣りました。」
「どこで釣ったのですか?」
「ここで釣りました。」
「みせてもらえますか?」
「わははー。見ていいどー。」

クーラーボックスに入っていたマヒマヒ(シイラ)は、すでに切り身となっていたが頭の部分から推し量るに、メーターにも届こうかという巨大なもの。これが、ここで?こんな港の中で?(これは、いまだに僕は信じていない。)他には、リリロとかいう、フエダイの仲間みたいな55センチほどの魚。

うむ。やはりこの竿では無理であったか。まあ、糸が切られようが竿を折られようがそんなことは、どうだっていい。やはりポイントの選択は正しかった。ここなら、足下で魚が釣れるぞ。

「このタレはうまい。非常にうまい。何が入ってるの?ソイソース?」
「そうそう。ソイソース、キッコーマン。それから、タマネギのスライスにレモンにホワイトペパー(生)。刺身を食うか?ワサビはないが。」
「刺身もあるの?」
「ほれ」
「うわ」

マヒマヒの刺身を、レモンの香りと生の白トウガラシが効いた醤油につけて食べる。ついでに、緑のナスのようなものを、つけてかじる。さわやかな汁が口にほとばしる。

「うまいがな」
「ちょっと待て。今、マヒマヒスープを飲ませてやるから。メシも食うか。」
「なんでもあるね」
「なんでもある。ワサビはないが。ほれ、スープとメシ。食べて飲め、もっとビールを飲め。」
「うーむ。うまい。おいしい。すごい。トムヤムクンにも似てる。これは?」
「マヒマヒ、ホワイトペパー、ホワイトペパーの葉、レモン、ソイソース、味の素。ゴハンにかけてもいいぞ」
「おじや。グアムの魚おじや。熱いおじやが。松の木陰でどんじゃらほい。」
「うまいか」
「うまい。ありがとう。」
「もっと食べろ。ビールは減ってるか。いっぱいあるからどんどん飲め。ノープロブレム。ウイークエンドリラックス。」

「ところで」
「ん」
「あなたたちは、同じカンパニーか?」
「そう、カンパニー。」
「そこのお父さんは東京マリンのマネージャといっていたが、みんな東京マリン?」
「ちがう。みんなちがう。そこにいるのはガバメント、そっちは新聞社、そっちは・・」
「そうすると、ファミリー?」
「そう、ファミリー」
「さっき、カンパニーっていったじゃないか」
「ウイークエンドリラックス」

聞くと、全員フィリピン系の人たちのようで、そういう意味でカンパニーでありそういう意味でファミリーであり、それ以上に釣りの仲間であるらしい。どうもよくわからんが、そういう社会というものなのだろう。

こっちは、観光のポンニチであるからして、せっかくの好意をありがたく受け止めてどんどん飲む。もう、かなりわからなくなってきたが、とにかく飲む。この間、子供ははしゃいで庭かけまわり、妻は飲めないので、ひたすら食べていた。世はこともない。

町田と長崎に住んだことがあり、マックでグラフィックをやっているアレックスという若者がやってきた。日本語がかなりうまい。いろいろ、話を聞く。

「そこのメトロは名人だよ。こないだ44パウンドを釣った。その先の岩場で」
「は?この港の中で?そりゃすごい」
「名人だからね」
「どんな魚?」
「イスキップジャッ」
「ごめん、もう一度言ってくれる」
「イスキップジャッ」
「ごめん。よく聞き取れないんで。悪いけどもう一度」
「イスキップ・・・紙に書くから」

SKIP JACKと書いてくれた。そうか、なるほどねえ、名前からして回遊魚かな。ひょっとして、ヒラアジの類だったらいいな。

「どんな魚?色は?」
「全体に平たい。色は白。鰭は青い」

うーむ。イスキップジャッの44パウンド。なんかしらんが凄そうだ。

おしゃべりをしているうちに、すでにして夕暮れが迫っていた。ちょうど満潮を迎えて、さっきよりも海面が盛り上がってみえる。宴を中座して、タープの10メートルほど横から海に向かって投げる。ベイトリールにメタルジグ。速引きをするだけ。見た目ではわからないが、潮はかなり速く沖に流れているようでカウントダウンをしていると、相当流される。

もう一度、今度は表層を速引き。もう一度、次は底をジギング。いろいろやる。中学生の頃に、初めてベイトリールを買って、一時はかなり狂ったルアー釣りだったけれど、長いことやめていた。中断したのではなくて、やめた釣り。でも、手は覚えていた。日本を出る時に買った安物のベイトリールが、一投ごとに掌に溶けていくようだ。気持ちがいい。気持ちがいいぞ。

紫色の夕闇の中で、手ごたえがあった。思わず目をつぶる。きちまった。酔っ払いのポンニチの竿にグアムの魚がきちまったぜい。

とにかく巻く。さほど大きくはないが、魚種がわからない。ヒラアジじゃない。ハタでもない。なんか、もたもた暴れる。いったい、この僕に恵みを垂れてくれたのは、どんなやつだろう。魚を見たい。僕の竿についている魚を見たい。

黒い胸に赤い顔をしたカンパニーたちが、わらわらと背後にやってくる。

「きたね」
「名人」
「あわてるな」
「見えた」
「カマスだ!」
「バラクーダだ!」
「さわるな、歯がきつい」
「こっちへ寄せろ。ペンチを持ってこい」
「まかせろ。ペンチはいらないぞ」
「カメラだカメラだ」
「JUNが釣ったぞ」
「うまいもんだ」
「カメラだカメラだ」
「ビールだビールだ」

約60センチ。バスロッドで楽にあがるほどのバラクーダに、大騒ぎである。その後、ほどなく、もう一匹。今度はちょっと大きい。ふたたび、大騒ぎとなる。みんなはよろこび、僕は、うれしかった。この魚は、なんとかみんなで食べてやりたいと思った。

スポーツフィッシングという言葉にふりまわされて、とうとう、竿を置いてしまった頭の悪い釣師の心に、小さな灯が帰ってきた。

もう迷わなくていいのではないか。様式が内実を決定するのではなくて、むしろその逆だろう。地のおっちゃんにとってはルアーで釣ること自体に、それほどの意味はない。そして、豊かに食べることで完結する釣りもある。それがスポーツでないというなら、僕は地のおっちゃん釣師になろう。グアムの仲間たちのように。

アガニア湾に日が沈み、仲間の宴は続いた。

P.S.

翌日、必ず同じ場所に来いといわれたので行ってみたら、大雨に見舞われていた。青いビニールシートを、タープに使うノウハウが確立されているようなので大きなお世話なのだが、日本製のタープに僕と家族の顔をシルク印刷して送ってさしあげることにした。「次に来る時には、家に泊まれ。飯も食べろ。ボートで釣りをするぞ」と言ってくれたのが、酒の上とはいえ、うれしかった。どうも釣師が相手なら、何語だろうと通じるような気がする。

(ニフティサーブ釣りフォーラムのログより転載)


P.P.S

その後の情報によると、イスキップジャッ(SKIP JACK)とは、カスミアジではないかということ。なるほど平たいし、大きくなると鰭は青くなる。そいつの44パウンドというと約20kg。こんなのを港のミオ筋で釣るとは、さすがメトロ。名人。

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