2006年8月 7日

殺し合いではない

みんな書くだろうけど、おれも書く。

8月5日に行われたHERO'S 2006(有明コロシアム)のメインイベント、桜庭和志VSケスタティス・スミルノヴァス。

1R開始まもなくの打ち合いで、スミルノヴァスの左フックが当たり、桜庭は前にのめるようにしてダウン。ボクシングでもそうだが、前に倒れるというのは非常に危険で、あの時、桜庭は意識がないか、あっても体の神経が通っていない状態になっていたと思う。

ボクシングなら、そこでレフェリーが相手をニュートラルコーナーに行くように指示して、カウントを始めてくれるが、総合なのだから倒れても打たれ続ける。スミルノヴァスは、むりょ86発のパンチを放ったらしい。桜庭は、本能的に防御していたが、相手のミスに助けられただけで、とても防御といえるような反応ではなかった。

普通、総合の試合ではあのようなダウンがあった時点で試合がストップされ、TKOが宣告される。倒れた相手を殴っていいルールなのだから、当たり前の処置なのだが、この試合ではそれがなされなかった。

スミルノヴァスは、あれ以上何をすればよかったのだろうか。相手を殺さないと試合が終わらない。という状態が、少なくとも2分は続いた。つまり、桜庭が泥酔者のような反応しかできなかった時間帯だ。

惨事が起きなくてよかったと、心から思う。桜庭の大逆転勝利よりも、そのことの幸運を強く思う。あれで桜庭が死ぬなり、重いダメージを食らってしまえば、総合格闘技というジャンルそのものがなくなってしまう危機だった。その危機の時間が、数分間はあった。相手がヴァンダレイ・シウバだったら、かなりの確率でそうなっていただろうと思う。

37歳という年齢。PRIDEを捨てて移籍してきた初戦という事情。地上波で全国中継される乾坤一擲のイベントのメイン。近年では勝率5割をキープするのがやっとという桜庭の戦績。その桜庭が1R開始早々にKO負けしてしまえば、失うものは本人だけでなく非常に大きいものがあるという事情が、レフェリーの判断を狂わせ、リングドクターは機能せず、セコンドも役に立たなかった。要するに、試合をスポーツとして成立させるための、選手以外のすべての機能が失われていた。おそろしいことだと思う。

試合後、前田日明が「殺し合いじゃないぞ」と吠えたらしい。小川VS橋本戦の猪木じゃないが、前田はリングに乱入してレフェリーを突き飛ばし、試合を止めてもよかったと思う。そういう超法規的な試合の壊し方をやってでも、止めるべき試合だった。

桜庭は、何度でもリセットできる格闘ゲームのキャラクターではない。負ければ引退という覚悟で戦っているファイターに、正しく引退させる枠組みを作ってやることも、試合をセットする側の責任というものだろうと思う。

忘れてはいけない。そもそも彼は、あんな左フックを食らうファイターではなかった。

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コメント

ひろすけさん>

そうですね。ぼくも最初、UFCの映像を観るのが嫌でした。ルールに技術がともなわないと、悲惨なことが起こるわけです。

現在では防御の技術が上がり、上をとっても簡単にパンチが当らなくなりましたし、特に柔術系の選手の場合、下になってパンチをよけながら首、腕、肩胛骨などを固める関節技を狙うという戦術をとることが多くて、グラウンドに移行してからもレベルの高い技術の応酬があります。

今回の試合は、プロデューサーら関係者も「止めるべきだった」といっていて、まあミスジャッジなのですが、ほんとにあってはならないシーンでしたし、それが桜庭が背負うものということであれば、あまりにも痛々しかったです。

アゴなどに打撃が当たり、意識が飛んでダウンした時は即座にTKOを宣告する、というのが普通で、その意味ではレフェリングも洗練されてきていたのですが。

総合格闘技がなんであるかよくわかってない僕が言うのもナンなのですが・・・
スポーツの魅力には「美しさ」があると思うのです。
格闘技でも、例えば柔道なら豪快な一本背負いとか、相撲なら土俵際のうっちゃり、ボクシングなら絶妙のタイミングで繰り出すカウンターなどなど、実に美しい瞬間を見せてくれていると思います。
倒れた相手を押さえつけてボコ殴りすることには美しさのかけらも見出せないわけでして、それがルールで認められている競技は、どうにも好きになれず、ろくに見てません。
殺し合いを期待する狂気が蔓延しないうちに、ルールなりシステムなりを再構築する必要があるのでしょうね。

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