2006年7月 7日

本>岩城宏之「森のうた」「フィルハーモニーの風景」

なんか岩城さんづいちゃったようで、2冊読んだ。この人は文章も天才的だという話は聞いていたけれど、これまで読んでなかった。

「森のうた」は、芸大時代の山本直純との、はちゃめちゃ青春記。戦後さほどたっていない時代、芸大の木造校舎を舞台に、指揮棒を振りたくてたまらない作曲科のナオズミと打楽器科のイワキが、学生たちをだまくらかして交響楽団を結成する。彼らを取り巻く林光、渡邉曉雄らの人物像も興味深い。

「ぼくたちは、東京フィルハーモニーとか、東京交響楽団のようなスポンサーのないビンボー・オーケストラもよく聴きにいったが、切符をちゃんと買った。零細企業は助けなきゃいけない。ところがNHK交響楽団という日本一の大オーケストラ、体制の権化には、抵抗感もあり、反抗手段として、絶対に切符を買わなかった。つまり、いつもモグって入ったのだ。あんな威張っているオーケストラに金なぞ払うものか。」

という理屈でもって、コンサート会場にモグる日常。日比谷公会堂のステージに設けられた「山台」の下に、ナオズミと二人でほんとにモグリこんで、そのすきまからマルティノンの指揮を正面から見るシーンはすごかった。記録によれば1953年10月13日、戦後、現役の世界的指揮者の来日第一号の、それも初演の日ということになる。テレビのない時代、その指揮を正面から見ようと思えば、この方法しかなかったとはいえ…。

大体この人、在学中にN響からティンパニ奏者で誘いがあったのを「首席なら」と条件をつけて、あきれられて断られた。しばらくして、やはり在学中に指揮研究生(副指揮者のようなもの)としてN響に迎えられるのだから、こういうめちゃくちゃな勉強熱心さも、ちゃんと役に立ってはいたのだ。

最後、ナオズミがショスタコービチの「森の歌」を振るシーンは圧巻。あんな風にオーケストラの熱気と感動を描いた文章というのは、読んだことがなかった。

2冊目「フィルハーモニーの風景」は、岩城が振ってきたウイーンフィル、ベルリンフィルといった楽団の話から、ハープを運ぶ運送屋さんのアルバイト体験ルポ、裏方さんの話、ホールの響きについての考察などなど、オーケストラをめぐるもろもろについてのエッセイ。こちらも面白かった。

あんまり面白かったので、季節はずれとは思いつつ、クライバーのニューイヤー・コンサート(1992)を聴きながら読んだ。こういういい本に出会った時は、気分は正月なのだからして、これでいいのだ。やっぱりなんだかんだいって、ウイーンフィルはすごかった。あのハッピーなシュトラウスのワルツに、ちょっと涙ぐむほど感動してしまったのだった。

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