2006年6月27日

石井智宏という希望

新日本プロレス。6月17日(土)大和スポーツセンター 。SXWで見た。

最近の新日本は、リングの上があまりに痛々しくて長いこと見てなかったのだけど、ひさしぶりに見てみたら、熱気が少し戻っているというか、わりあいプロレスになっている。ただ、下から見上げるカメラアングルは非常に違和感があった。

光っていたのは石井智宏というリキプロのレスラー。長州の子分みたいな立場で、外様ならではの緊迫感がそうさせるのか、この人のプロレスにはちゃんと「戦い」というものがある。プロレス内プロレスで戦いがあるのかというような一元論ではわからないだろうけど、あるのだ。それなりの試合をセットしてくれるなら、この人を見るだけでチケットを買ってもいいとすら思った。

この日は、矢野通とのタッグだったのだが、矢野もまた体が二回りほど大きくなっている印象で、赤いタイツに金髪、たるみ気味の腹と、これはこれで平成の上田馬之助だ。うまいこと考えるもんだ。もともとアマレスの実力者だから、いざとなるとシャープに動けるし、肉体によるプロレス文法というものを知っている。センスがいい。

第一試合の裕次郎VS内藤哲也からして楽しめた。新日伝統のグリーンボーイによるグラウンドの取り合いという芸。相手のバックをとるという、ほぼダメージ的には無意味な行為を、さも命がかかっているかのような虚構のもとに、しかも客の目を離さずに演じる。これがなくてはプロレスにならない。

いろはのい、というけれど、プロレスとは猫のキック合戦と同じく肉体で交わす言葉なのであって(猫は客を意識しないが)、一年生の彼らがそれを一所懸命やることで、客にプロレスの文法とその団体のレベルを教える。このように様式化された第一試合というのは、たぶん新日の最大の特徴だろう。

しかも一年生なりに優秀だ。永田や天山が忘れ、二流選手ではそもそも知らないものがここにある。見よう見まねのカタコトの常套句から始めて、自分の言葉を獲得していくということでは、プロレスもジャズも同じだ。個性とか自己表現なんてのは、その先の話なのだ。

悲惨だったのは、解説の山本小鉄も指摘していた天山だった。以前、危惧していたよりもひどいことになっている。皮膚に張りがなく、もともとパワーファイターとしては貧弱に見えてしまう胸板が、よけいに肉が落ち、なんだか引退寸前のレスラーのように見えた。相変わらずのモンゴリアンチョップ。もう、あんな技はやめた方がいいんじゃないか。もう一度、体を作り直して、前の方の試合で裕次郎あたりを相手に、忘れていたものを取り戻した方がいいんじゃないかと思う。あるいは、外に出るかだ。あの類いまれなレスラーが、このままかすむのはよくない。

永田裕志は、相変わらず。蹴りで試合のリズムを壊すのもいつも通りだったけど、これがこの人のセンスだとは思えない。一度、ほんとに蹴りを封印して試合を作ることをやってみないと、ノアの秋山準のように、自分の団体のプロレスそのものを面白くする役割は果たせそうにない。半端なギタリストが無意味な早弾きをしたがるように、自分だけうれしがっているように見えてしまうのだ、あの蹴りは。

ミルコに素人同然にKOされたレスラーが「打撃」にこだわってはいけない。むしろ、ミルコ戦の惨敗を機に、打撃を捨ててグラップラーになる、というような物語のつむぎ方もあったように思う。

あとは、ベスト・オブ・スーパージュニア絡み。個人的には、井上亘、邪道、外道のファンなのだが、一次リーグで姿を消して6人タッグに出てきた邪道・外道はどこか元気がない。特に邪道は、長年のがんばりが体にきてしまっているのじゃないかと心配になるほど。井上も準決勝で田中稔に丸め込まれて敗退。そろそろこの人もトップに立ってほしいが。

棚橋を忘れていたが、忘れられてもしょうがない。やはり、相変わらずで、まあまあ。この人は、プロレスがうまいということになっているのだけど、試合を構成するのはうまくても、それがプロレス的なスペクタクルやスイング感につながるかというと、めったにそういうことはない。この日もそうだった。要するに、予定通り、想像通りで、おや、とか、ほう、と思わせる一瞬というものが、なかなか現れてこない。がんばってるから悪く言いたくないのだが、あまり試合を見たいとは思わせてくれない。

ひとつの技を完成させた時に、どうだいと胸を張ってうれしそうにするのがまずい。相手に向かっていくのではなく、自分の世界だけでプロレスをやっているようにみえる。普通、こういう人をプロレスがうまいとはいわない。楽器がうまいだけではジャズにならないように。

その流れでいうと、フィニッシュに至る直前の「よっしゃー」だの、決めのポーズだのは、レスラー全員禁止だ。やりたい者は一興業に一人としておいて、くじでも引いて決めればよい。そんなことより、絞め技でレフェリーにギブアップを問われた時、なんと答えるかくらいのことを研究した方が、まだましだ。みんながみんな「ノー、ノー」ではおかしいではないか。矢野なら「帰りてえ」くらいいっていいし、棚橋が熱い試合で思わず「ふざけんな、ばか」などと吠えれば、それだけで何かが始まる。

中西は、そういえばいたなという感じで、影うすし。やはり、この日は石井智宏。新日に、小さな希望の灯がともった。すべての若手は、石井の気迫を範とすべし。

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