映画>虎の尾を踏む男達
『虎の尾を踏む男達』(黒澤明監督/1945)。
義経一行の安宅の関越えにまつわる物語。というか、歌舞伎の勧進帳そのものであって、「旅の衣は鈴懸の~」というあの唄も、歌唱風に流れる。
弁慶役の大河内傳次郎と、強力役のエノケンの対比の面白さが見どころなんだけど、まあどちらもお見事。特に大河内傳次郎という人の風格、迫力はものすごいものがあった。
公開は1945年9月。ということは、敗色濃いサナカに撮られていたわけだ。映画に限らず、すべての芸術、すべての生活が軍事色に染められ、軍部だけでなくコクミンが相互監視するような中で、このような戦争のセの字もない映画を撮ることにどのような意味があったのかと、ちと考えた。
いろいろあろうけど、当時、お笑いまで時勢にそぐわないということで禁止されており、エノケンは出番がないどころか反体制扱いすらされていた。そのエノケンが出るなら、一応体裁として日本古来の歌舞伎をもととするこんな映画しかなかったことは確かだろうと思う。
義の人、富樫役は、黒澤のデビュー作『姿三四郎』で主役をやった藤田進。この人、単に二枚目という以上に、育ちの良さを感じさせて味のある役者だったなあと思う。
追記:
藤田進は久留米市京町の出身だった。京町というのは、町というより路地といった方がいいくらいの、ごく狭いエリアで、近くに水天宮の本社がある古い町だ。石橋凌もこの町の出身。ぼくも以前、すぐ近くに住んでいて、この路地を歩いて会社に通った。藤田は黒澤明のデビュー作に主演するくらいで、俳優として順調にスタートしたけれど戦時中は軍人俳優として受けたことを自責して、俳優をやめることも考えたという。昭和40年代にはウルトラマンシリーズの司令官役もいくつかやっていた。

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