1999年3月24日

春の雨に踊ること

春になり、東風が吹き込んできてあたたかい雨が降る夜。
鮎師は、その雨音でお酒を飲むことができる。
万感胸に迫る酒。この世のものごとはなべてよしと思える酒。

雨で水かさが増し、水温も上がった川を、その年の稚鮎がいっせいに昇りはじめるのだ。もしもこの雨が降らなければ、いや、仮に十日遅れてしまったら、もうその年の川はさびしいものになるだろう。河口沖の海に群れている稚鮎が、うまいこと遡上を始めるタイミングはそれほど間口広くはない。

友釣りを始めて2年目の春の夜。私は琵琶湖のほとりに住む師匠から送っていただいた稚鮎の飴炊きを肴に、お酒を飲んでいた。そこへ雷が鳴って雨が降り出したのだ。すると私は、スヌーピーのように腰に手をあてて、その場で「鮎じゃ鮎じゃ」とわめきながら、ダンスを踊ったらしい。あとでオクサンがそういっていた。

雨が上がり、水が澄み加減になった頃、天気の良い日を見はからって川辺を歩くのは楽しい。あの夏に鮎とともにこだわり、熱中した石のひとつひとつを確かめながら、草を踏んでハミ跡を探し歩く。

たいてい、岸寄りのゆるい流れに沿って、石が磨かれている。目を凝らすと、もう石にしっかりついて食んでいるのがいる。あれは一番鮎としてそこらを牛耳るようなやつになるんだろう。トロ場を数尾で遊んでいるのもいる。あいつらもこの時期にすでに群れを離れて一人立ちしつつあるのなら、やがて立派な鮎になるにちがいない。

幼い鮎が遊ぶ川べりに腰をおろして、コップにお酒をつぐ。山は新緑には早いけれど確かに春の山だ。まだ若い風の向こうには、あの夏の匂いすらするようだ。なんという至福だろう。

今年も鮎がやってきた。
今年も綾北川に鮎がやってきた。

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